英トランスジェンダー、NHSの手術待ちの長さに苦悩
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【10月21日 AFP】英イングランド南西部出身で、アニメーション学校に通うジェイさん(19)は、幼いときから自分が人と違うことを知っていた。思春期を迎えてますます女性らしくなっていく体は、自分の中で発達しつつあったアイデンティティーとは一致していなかった。 トランスジェンダーとはどういう人を指すのか、また自分と同じような人々は、自分らしさを表すために自分の体をどのように変えていったのか。調べていくうちに、英国民保健サービス(NHS)を利用して性別移行するには何年もかかることが分かり、打ちのめされた。 AFPの取材に応じたジェイさんは、「そんなに待たされるなんて、耐えられない」と声を震わせた。 私費で手術するには、少なくとも5000ポンド(約68万円)はかかる。ジェイさんは、胸部の手術費を集めるためクラウドファンディングを開始した。 英政府の2018年のデータによると、英国のトランスジェンダーは推定20万人から50万人。このうち1万3500人前後がNHSの病院で手術の順番待ちをしている。 だが新型コロナウイルスの感染防止対策として、NHSの医療施設は「不要不急」と見なす一部の医療行為を停止。順番待ちの時間はさらに延びた。 政府は先ごろ、需要の高まりに対応するため、性別違和を専門とする診療所を3か所新設し、140ポンド(約1万9000円)の診察料を「低料金」に引き下げる方針を発表した。 リズ・トラス(Liz Truss)女性・平等担当相は先月、「NHSのジェンダークリニックではいつまでも順番が回ってこないというトランスジェンダーの人々からの不満が届いている」として、「実際にその通りだと思う。そうした事態が苦痛をもたらしていることを憂慮している」と発言した。 英国家統計局(Office for National Statistics)のデータによると、国内で犯罪被害を受けたことがある割合はシスジェンダー(性自認が一致している人)が14%だったのに対し、トランスジェンダーは28%に上った。 ■若者の場合、診療の順番待ちが長引けば自傷や自殺のリスクも ナイジェリアと北アイルランドで育ったトランスジェンダーのアレクシス・メシダ(Alexis Meshida)さん(26)は、自身も差別と暴力を受けてきたと話す。ロンドンで「安心」して日常生活を送るために顔を女性化する手術を受ける資金を集めている。 メシダさんは暴力を受けるリスクだけではなく、診療を受けるまでに待たされる時間が長くなれば、それだけ精神衛生上のリスクも高まるため、命が脅かされることになると指摘した。 特に18歳未満のトランスジェンダーの多くにとって、体の性別移行は容易ではない。最初に心理カウンセリングを受けてからでないと、第2次性徴遮断薬の処方やホルモン療法は受けられないからだ。 トランスジェンダーの若者とその家族を支援している組織「Think2Speak」の代表、リジー・ジョーダン(Lizzie Jordan)氏は、トランスジェンダーの若者たちが診療をなかなか受けられず、自傷するリスクが現実のものになっていると指摘。 「現行の制度には重大な欠陥があり、必要なケアが適時行われていない」と批判し、「もがき苦しんでいる子どもたちは、やがて自傷や自殺に走るようになる」と話した。 あと10年も待つのは耐えられない、不安障害や抑うつなど、他の問題につながっていくとジェイさんは言う。 クラウドファンディングの目標額8600ポンド(約117万円)のうち、これまでに集まった額は900ポンド(約12万円)を超えた(9月末現在)。 今は、(胸の膨らみを目立たなくする)チェストバインダーを着けているが、いつか、それなしで海岸でシャツを脱いで過ごせる日が来ることを心待ちにしているという。それまでは、待つしかない。 映像は9月に取材したもの。(c)AFPBB News