東京五輪、トランスジェンダーの女性選手はどうなる?

Laurel Hubbard
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東京五輪の女子重量挙げで金メダル候補のローレル・ハバード選手

2020年の東京五輪開幕まで1年を切る中、ある「現代的な問題」への対応を国際オリンピック委員会(IOC)に求める声が、スポーツ界から上がっている。トランスジェンダーの女性選手をどうするかだ。

IOCのガイドラインでは、男性として生まれながら女性として五輪に出場するトランスジェンダーの選手について、男性ホルモンのテストステロンのレベルを大会の1年以上前から抑制しなくてはならないと定めている。

これに対し、イギリスの元五輪代表女子水泳選手のシャロン・デイヴィス氏らは3月、IOCに書簡を送付。トランスジェンダーの選手を女性として出場させることについて疑問を投げかけ、さらなる研究が必要だと訴えた。

重量挙げで金メダルを獲得

性自認とスポーツ競技をめぐっては、今月サモアで開かれたパシフィック大会でも話題となった。

ニュージーランドの女子重量挙げ代表で、もとは男性でトランスジェンダーのローレル・ハバード選手(41)が、地元選手を退け、金メダル2個を獲得したのだ。

ハバード選手はIOCのガイドラインをクリアしていることから、東京五輪では金メダルを手にする初のトランスジェンダー選手になる可能性が指摘されている。

BBCの取材に応じたデイヴィス氏は、ハバード選手の活躍に言及。「IOCが目を覚ますまで、ここまで行かなくてはならないのは異常だと感じている」

「いろいろ変わると期待しているが、実際に変わるまで、女性たちが犠牲になることが問題だ」と述べた。

スポーツ競技におけるトランスジェンダーの問題は昨今、議論が高まっている。テニスのウィンブルドン覇者マルチナ・ナヴラチロワ氏や、トランスジェンダーの自転車選手レイチェル・マキノン氏らも、それぞれの立場から異なる意見を表明している。

「身体的な優位性はそのまま」

デイヴィス氏が問題視する1つに、IOCがテストステロンを12カ月抑制すればいいとしている規定がある。

この規定をクリアしたとしても、トランスジェンダーの女性選手は、男性として成長する間に得た身体的な優位性を保ったままなので、女性の身体で生まれた女性選手との対戦は決して公平にならないというのが、デイヴィス氏の主張だ。

一方、トランスジェンダーのマキノン氏は、テストステロンの抑制は「急激な身体的変化」を招くと訴えている。

「人体実験」と批判

デイヴィス氏によると、IOCから書簡に対する返答は届いてないという。同氏はIOCが「人体実験」をしていると批判している。

連名で書簡を送ったのはデイヴィス氏と、イギリスの元女子陸上選手で五輪金メダリストのデイム・ケリー・ホームズ、同女子マラソン世界記録保持者のポーラ・ラドクリフ氏ら、約60人のトップクラスのスポーツ関係者たち。

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IOCに連盟で書簡を送ったデイム・ケリー・ホームズ、ポーラ・ラドクリフ氏、シャロン・デイヴィス氏(左から)

デイヴィス氏は、「IOCはアスリートの意見には関心がないということだ。スポーツは選手たちのためにあるのに、この対応にはとてもがっかりしている」と述べた。

そして、「五輪でとても悲しい光景を目にしないと変化は起きないだろう。有名女子選手が打ち負かされるのを目にし始めてやっと、人々は立ち上がり、状況を理解し始める」と話した。

一方、IOCはBBCスポーツの取材に対し、デイヴィス氏たちから書簡は受け取っていないと話した。

IOCは「定期的に見直す」

東京五輪までにガイドラインは変更されるのかというBBCスポーツの質問に対し、IOCは回答を避けた。ただ、スポーツにおける公平性と安全、包含、無差別の観点から、「新たなガイドライン制定に取り組んでいる」と説明した。

IOCはまた、「ジェンダー自認や性特徴にもとづく差別のない、さらなる包含を進める」とし、「スポーツ全般における女性の平等とエンパワーメント(力づけ)が確実に実現されるよう留意している」と述べた。

さらに、医学や科学、法律、人権などの専門家などとも協議していると説明。「我々はすべての関係者と話し合いながら、定期的にガイドラインを見直し、この分野での進展を反映するようにしている」と答えた。