高額な手術代、家族とのわだかまり...親と同居するトランスジェンダーの若者たちの事情
手術費の貯金、精神的な安定... 彼女が今も親と住む理由
「こっちに聞こえないようにドアを閉めようか?」キッチンで野菜を切っていたジェニー・トマシェフスキが声をかける。2019年4月、私はトマシェフスキの娘ピア・クルスの話を聞くため、カリフォルニア州サンノゼ郊外にある彼女の家を訪れていた。きれいに掃除のされたリビングには私たちふたり、そして足元には愛犬コアが寝そべっている。【BuzzFeed Japan】 「大丈夫だよ、ママ」。クルスが答える。クルスはこれまで歩んできた道のりをひと通り語ってくれていた。母親のトマシェフスキもすべて知っている話だ。 自分がトランスジェンダーだと気付いたのは、18歳の誕生日だった。三つ子の兄弟2人と、メイン州へ家族旅行に行った時だった。 10カ月間兵役に就いていたとき、持っていた女性向けの服が上官に見つかったこともあった。「これ、あなたの彼女の服だよね?」と問い詰められ、その時は話を合わせたことも話してくれた。軍では当時も今も異性装を禁じているのだ。 そして、2019年夏には脱毛のためシカゴに行くという。 クルスはいま、両親と同居中している。一度は家を出たが、手術の費用を貯めるため、また精神的な安定を得るために、1年前に実家へ戻ってきた。 両親としては想定外だったが、おかげでサンノゼ市内に部屋を借りていたら払っていたはずの家賃分(少なくとも月額86,000円から130,000円はかかる)を手術費にあてることができる。 シカゴには何回か足を運ばなくてはならず、初回の脱毛だけでも約54万円ほど必要だ。 「私が両親と一緒に住む理由は、この高額の費用を払うためです」とクルスは言う。
「今自分がこうしていられるのは、ママのおかげ」
「ママのおかげでホームレス状態から救われてるので。まあホームレスになったのもママのせいなんですが(笑)」クルスはこう語った。 クルスと家族との間には、衝突もありながらも、ある程度の絆が築かれている。ここまでたどり着くまでには、クルスが女性として生きる選択を巡って、何年にも及ぶ衝突があった。 今あるのは、娘のゴミ出しについての不満のような、22歳になった子どもが親と同居していればどこの家でもありそうな衝突だ。 「この子は料理は本当によくやるんです。でもキッチンをありえないくらいめちゃくちゃに散らかしてしまう。それでいらだってしまいます」