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性的指向の暴露とプライバシー侵害

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先日,ロースクールの男子学生(A君とします)が同じクラスの男子学生(B君とします)に告白したところ,B君が,他の同級生に「A君がゲイであること」を伝えてしまい,その結果,A君が自殺するに至ったという痛ましい事件についての報道がありました(朝日新聞ネット版H28.8.5付き記事など)。

また,A君のご遺族は,B君と(ロースクールを設置・運営している)一橋大学を相手として,プライバシー侵害等に基づく損害賠償請求訴訟を提起したそうです。


このトピックでも,プライバシー侵害については度々取り上げています(「日本の裁判で最初に認められたプライバシー侵害」,「裁判例からみるプライバシー権あれこれ」)が,

 

(イ) 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
(ロ) 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること(換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担,不安を覚えるであろうと認められることがらであること)
(ハ) 一般の人々に未だ知られていないことがらであること

 

という,「プライバシー」にあたるかどうかを判断する際の基準に照らせば,「社会的に少数とされている自分の性的指向(ゲイであること)」は,プライバシーにあたるといえるでしょう(Letibee Life「一橋大学ロースクールでのアウティング転落事件〜原告代理人弁護士に聞く,問題の全容」という記事によれば,A君はゲイであることを周囲には公表(カミングアウト)していなかったようですから,上記(ハ)も満たしています)。

 

ここで,B君のした行為は「LINEグループメンバー」(上記Letibee Life記事では「10名」という数字が挙げられています)に対して,「A君がゲイであることをLINEメッセージで伝えた」というものであったところ,プライバシー侵害は,プライバシーにあたる事柄を「公表」,つまり,「不特定または多数に伝えること」によって成立するとされています。

そうすると,今回のように,伝えた範囲が特定かつ少数と言えるような場合にも,「公表した」といえるかが,問題となり得ます(実際,A君の遺族がB君及びロースクールを相手として提起した訴訟において,B君側は「プライバシー侵害にはあたらない」という主張をしているようです(BuzzFeed News「一橋大・ゲイとばらされ亡くなった学生 遺族が語った「後悔」と「疑問」」))。

 

確かに,A君の性的指向を知ったのが特定少数にとどまるということであれば,「公表」にはあたらないのでプライバシー侵害ではない,という結論になりそうです。

しかしながら,裁判例においては,ある人物が精神障害者3級の認定を受けているという事実を知った者が,当該事実を第三者に対してメールで伝えた行為がプライバシー侵害があたるかが争われた事案で,「病状に関する私的な情報であり,かつ,一般にいまだ知られていない情報であるから,本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,本件個人情報は,控訴人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべき」とした上で,「控訴人の意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ,保険加入とは何ら関係がなく,共通の知人にすぎないBに対し電子メールの送信により本件個人情報を伝えた被控訴人の行為は,何らの必要性も認められず,控訴人が任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり,控訴人のプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべき」と判断されたものがあります(東京地方裁判所平成21年11月6日判決判例集未登載 ウエストロー・ジャパン2009WLJPCA11068006)。

 

また,特定かつ少数に伝えた場合でも,それが第三者に伝播していく可能性が認められる場合には,実質的には「公表」と同じであると判断され,プライバシー侵害にあたるとされる場合もあります。

したがって,本件においても,プライバシー侵害が認められる可能性はあるといえるでしょう。

 

最後に,今回の事件が,弁護士や裁判官,検察官などの法曹を養成するために設置されたロースクールで起きたというところに,私は非常なやり切れなさを感じます。

もちろん,今回の事件が大学,あるいは高校で起きたとしても,それが痛ましい事件であることには変わりありません。

 

しかし,法曹の存在意義のひとつは,「(社会的)少数者,弱者の権利を擁護すること」にある,と私は考えています。

 

弁護士法第1条

1 弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。

2 弁護士は,前項の使命に基き,誠実にその職務を行い,社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。

 

法曹を目指してロースクールに入った者が,「ゲイ」という,現時点の日本社会においては明らかに少数であり,また,様々な局面で差別を受けうるであろう立場にある者について,軽々にそれを周囲の人間に伝えてしまったというのは,法曹の存在意義を否定するに等しい行為であり,法曹のひとりとして非常に残念と言わざるを得ません。

 

確かに,同性の友人から恋愛感情を伝えられたB君にとっては,戸惑いや混乱などがあったかもしれません。

しかし,法曹という職業を目指している者として,自分のしようとしている行為がそれに相応しいものなのかどうか,立ち止まって考えてほしかったと思います。

 


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