

場所、人種、言語、セクシャリティ──壁を越境する音楽家たちへのインタビュー連載。第1回は、ヒップホップ・クルー、CIRRRCLE。
レズビアンというセクシャリティをもつヴォーカルのAmiide、日米の間でアイデンティティに揺れるラッパーのJyodan、恵まれた「普通の日本人代表」と自身で語るプロデューサー/トラックメーカーのA.G.O。
ヒップホップ・クルーという小さな器のなかに複雑な3人のアイデンティティが入り混じる、“世界の縮図”のようなCIRRRCLE。彼らは“分断の時代”をどのように越境し、ことばと音楽をひとに届けるのか。

「CIRRRCLE」は、Amiide、Jyodan、A.G.Oの3人からなるヒップホップ・クルーだ。
レーベルには所属していないにも関わらず、結成からまもなくSpotifyの公式グローバルプレイリストである「New Music Friday」にピックアップ。いま世界のヒップホップシーンでもっとも影響力があるといっても過言ではないアジア発のメディアプラットフォーム「88 Rising」とRed Bullが主宰の、「Red Bull Music Festival Tokyo and 88rising present: Japan Rising」にも出演した。
数多くの海外アーティストともコラボレーションを行い作品をリリース。10月28日(月)には、シカゴ在住のSen Morimotoの日本ツアーファイナルにも出演が決定しており、インディペンデントながら活躍の場を急速に広げている。
SEN MORIMOTO JAPANTOUR 2019 FINAL 「AFTERHOURS」
ACT : SEN MORIMOTO / CIRRRCLE
DJ: OMK (YOUNG-G, MMM, Soi48)
OPEN / START 19:00 SEN MORIMOTO JAPANTOUR 2019 FINAL 「AFTERHOURS」
ヴォーカルのAmiideは、映像クリエイターの顔をもちつつ(MVは、すべて彼女がディレクションしている)、レズビアンというセクシャリティをもつ。ラッパーのJyodanは、米軍基地で生まれ、幼少期から15年日本で過ごしながらも、現在は、アメリカ・L.Aにて暮らしている。プロデューサーのA.G.Oは、自身で「普通の日本人代表」と語るように、現在も一般企業に務める会社員だ。

Jyodan(左)A.G.O(中)Amiide(右)/Photo Courtesy of CIRRRCLE
CIRRRCLEという器では、メンバーの多様なバックグラウンド、アイデンティティが入り混じる。それは、小さな価値観・アイデンティティが声を上げ顕在化し多様化する、現在の世界の縮図のようにも映る。しかし一方で、日本で生きていくうえでの息苦しさを彼らはそれぞれ抱えている。
そんな社会に対するフラストレーションを、彼らは「怒り」のフォーマットにのせて歌わない。「怒り」は、小さな声をすくいあげ、拡散するための拡声器だ。その強力な武器を使わずに、彼らの音楽は「ハッピー・ヒップホップ」を掲げる。
ヒップホップ・クルーという小さな器のなかで交わる人種、言語、セクシャリティ── 異なるアイデンティティや価値観をどう越境し、クリエイションするのか。そんな疑問を、彼らに投げかけた。
インタビュー:矢代真也 撮影:Hayato Takahashi 執筆・編集:和田拓也 協力:Mari Ochiai
言語・バックグラウンド・価値観の壁を乗り越え、どうクリエイションするか
──3人はCIRRRCLEの結成前、カリフォルニアのシンガー・ソングライター、アンダーソン・パークの初来日ライブにたまたま居合わせてたんですよね。
Amiide そうそう。全員いたんです、たまたま。それがなかったら、多分今ここにいない。
──すごい話ですよね。そこでAmiideさんがアーティストプロデューサーのMariさんと出会って、誰かと組むということに興味がなかったA.G.Oさんの家に、Amiideさんを強引に連れて行った。
A.G.O そうですね(笑)。それで僕のトラックに歌詞をつけてアミ(Amiide)の歌を入れてみたらブッ飛んだという。
Amiide それでラップを入れたらヤバいって話になって、ずっと仲良しだったJyodanに声をかけました。超軽いノリで(笑)。
──3人の音楽的ルーツってどういったものですか?
Amiide 今聴いてたり好きな曲はたまたま一緒だったりするんですけど、ルーツはそれぞれマジで違いますね。自分はもともと母親がオペラ歌手だし、宇多田ヒカルが大好きで。L.Aでは映像の勉強してましたし。
A.G.O 僕は、プロダクションはじめる前はDJだったんですけど、ファンクがルーツですね。
Jyodan 俺はもともとドラマーだしね。Fall Out BoyとかParamoreにめちゃくちゃ影響受けてた。完全にロック畑。
──かなりバラバラですよね。それが今のCIRRRCLEが掲げる「ハッピー・ヒップホップ」にどうアクセスしていったんですか?
Amiide 自分がそこにたどり着いたのは、CIRRRCLEをはじめる前に組んでたユニットのDJに「お前は勉強が足りない」ってめっちゃ説教されて、「うるせえ」とか思いながらどんどんディグるようになったのかな。あと、当時好きだった子がめっちゃ音楽詳しくて、負けないようにしないとと思って。
──なんかいい話ですね。
Amiide そこからSydとかKehlaniを尊敬するようになって。
A.G.O このあたりはみんな聴いてたよね。あとはKYLE(カイル)とか。僕も DJしていくなかで、ヒップホップかけれるようになろうと思って、一番最先端のヒップホップだったり、LAのビートシーンとか、シカゴ系に流れるようになった。SOULECTION系(ロサンゼルスのサウンドレーベル)とか。
あとはまあアンダーソン・パークからなんだろうな。
Jyodan アンダーソン・パークはマジで自分の音楽的な嗜好を切り開いたっていうかね。歌って、ドラムも最高。そんなの自分のなかで今までいなかったから魔法みたいだった。
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