(英エコノミスト誌 2014年4月19日号)

ロシアを止める代償は、今では大きなものになっている。だが、欧米が何もしなければ、もっと大きくなるだけだ。

プーチン露大統領、クリミアへの派兵を初めて認める

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、最初はグルジアに暴力を振るったが、世界は彼を許した。ロシアがあまりにも重要な存在で、世界から切り離すことができなかったからだ。

 次に、プーチン大統領はクリミアを併合したが、世界はそれを受け入れた。クリミアはそもそもずっとロシアの領土であるべきだったからだ。

 そして今、プーチン大統領はウクライナ東部に侵入したが、世界は行動をためらっている。侵入は必ずしも侵略ではないからだ。だが、今プーチン大統領に立ち向かわなければ、欧米はプーチン大統領を玄関先まで招き入れることになるかもしれない。

 4月12~13日の週末に、親ロシア派のデモ隊がウクライナ東部各地の警察署を襲撃した。これは巧妙な動きと言える。この行動により、キエフの暫定政権が抜き差しならない立場に追い込まれてたからだ。

 プーチン大統領は「ウクライナは内戦の瀬戸際にある」と警告している。ウクライナ政府が事態を掌握できなければ、国内の秩序を保てないと非難されることになるだろう。だが、武力を行使すれば(本誌=英エコノミスト=が印刷に回された時点で、軍事作戦が進行中だ)、ウクライナの兵士は十分に訓練されているとは言えないため、状況がエスカレートし、流血の事態となる恐れがある。いずれにしても、ウクライナ側が負ける。

 ロシアは欧米による脅しや警告を軽くあしらってきた。欧米は弱腰で分裂しているように見える。だが、ウクライナ東部の騒乱が起きた今では、ハト派でさえも、ウクライナの安定化の可能性が最も高い手段は、プーチン大統領に立ち向かうことだと理解したはずだ。なぜなら、今、強硬な態度を取ることが、のちの対立を避ける道だからだ。

越えてはならない一線と親ロ武装勢力

 ロシア側の主張によれば、スラビャンスクやゴルロフカといった町で起きている施設の占拠には、ロシアは関与していないという。その主張は信じがたい。襲撃は協調的に、しかもそれまでデモがほとんどなかった戦略的に役立つ場所で起きた。

 6週間前のクリミアと同じように、襲撃の口火を切ったのは、徽章のない制服を着て、ロシア製の武器を手にした武装集団だった。また、ロシアの工作員が拘束され、記者たちの取材でもロシアの工作員の姿が捉えられている。彼らはデモを組織し、デモの参加料を出しているとも言われている。

 ロシアは何週間も前からウクライナ東部に手を出し、時には、ウクライナ出身の作家ゴーゴリの風刺作品にありそうな事態を引き起こしている。4月6日に、「地元の住民」とされる集団がハルキウの行政庁舎と思しき建物を襲撃したが、彼らが占拠したのは、実は歌劇場だったのだ。

 ロシアの外交官は、事態の背後にロシアがいることはあり得ないと反論している。ウクライナ東部の混乱はロシアの利益にならない、というのがその根拠だ。