榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]
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あっぱれ「NHK紅白歌合戦」! 何とサザンオールスターズが出演した。なんと31年ぶり。新聞のテレビ欄のリストにも紹介されていない文字通りのサプライズだ。でもその裏には、テレビマン達のしたたかな戦いがあったのではないか、と小生は推理した。
歌ったのは「ピ-スとハイライト」と「東京VICTORY」。中でも「ピ-スとハイライト」は、2013年8月に発売された時、東アジアの政情が不安定化する中、政治風刺が強いと話題になった曲だ。歌詞にはこうある。
♪ 歴史を照らし合わせて
♪ 助け合えたらいいじゃない
♪ 堅い拳を振り上げても 心開かない
♪ 都合のいい大義名分(かいしゃく)で
♪ 争いを仕掛けて
♪ 裸の王様が牛耳る世は
♪ 狂気(Insane)
ミュージックビデオでは、パロディーで、アメリカのオバマ大統領と中国の周近平国家主席の「顔」が争ったり、安倍首相と朴槿惠(パク・クネ)韓国大統領がパン屋でつばぜり合いをする小芝居が出て来る。
番組では司会が「サザンの出演は、この1、2日の間に決まった」と言っていたが、民放に比べて何倍もの準備をするNHKのこと。水面下でギリギリの交渉と周到な用意がなされていたことは容易に想像がつく。
昨今、NHKは、時の政府の意向のもとでがんじがらめになってきている。本来彼らは、国営放送でもなければ政府の代弁機関でもない。戦前の体制翼賛的な放送に堕したことへの反省も含め、戦後は公共放送として独自の意思決定で放送してきた。だが、このところ予算の国会承認や経営委員の人選などを通じて、陽に陰にNHKを意のままに操ろうとする為政者の言動が目立っていた。
そこで「ピースとハイライト」だ。誰が選曲したのかは分からない。とはいえ、バンド、テレビマンなど現場の熱きカウンターパンチが十分見て取れる。国民のほぼ2人に1人が見る年間最高視聴率レベルの番組で堂々と放送する、巧みなやり方だ。
我々表現の世界にいる者たちが何よりも大切にしたいのは、「あらゆるものから自由でいること」だ。表現を支配する動きがあるから、こうした反作用が起きた、と筆者は見た。
でも当の制作者は、きっとこう言うだろう。
「良い歌だったから採用しただけのこと。それにサザンは、紫綬褒章を受章しているしタイムリーだった」
と。優れたテレビマンはしたたかだ。タダでは転ばない。
いいものを見せてもらった。
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