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フジ小保方氏パロディ、何が問題?風刺成立せず、テレビの“弱い者イジメ体質”露呈

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4月9日、会見を行う小保方晴子氏(撮影=吉田尚弘)
 STAP細胞論文問題をめぐり、論文作成のプロセスに不正があると判断した理化学研究所(以下、理研)の内部調査結果に対し、理研の小保方晴子ユニットリーダーが不服申し立てを起こしていたが、理研は5月8日の理事会で、この不服申し立てを退け、再調査しないことを決めた。これにより、小保方氏が研究不正を行ったとの認定が確定し、小保方氏側に論文の撤回を勧告。小保方氏の処分を検討する懲戒委員会も設置した。

 これを受け、小保方氏の代理人である三木秀夫弁護士は、「こういう対応をされると、訴訟も選択肢のひとつ」「論文は撤回しない」としており、いまだに事態収束の気配は見えていない。

 そんな中、3日放送のテレビ番組『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)が、小保方氏をパロディ化したコントの放送を予定していたことが判明し、物議を醸している。問題となっているコントには小保方氏を真似た「阿呆方さん」に扮したタレントがスリッパのようなもので頭をはたかれるという内容などが含まれており、放送前に予告動画が同番組公式サイト上に掲載され、そのコントが放送予定であることが判明。小保方氏側がフジテレビに抗議文を送付するなどして、放送見送りに至ったという。

 三木弁護士は抗議の理由について、「小保方さんの会見をネタにしているのは明らかで『阿呆方さん』という名前や、頭をはたくというのは人権侵害に当たる」と説明しているが、今回、フジテレビがこのようなコントを放送しようとしていたことについて、どのような問題があるのか。元日本テレビ『NNNドキュメント』ディレクターで法政大学社会学部教授の水島宏明氏はまず、「風刺の笑い」について次のように解説する。

「日本では批判精神を持った風刺の笑いが定着していない。英国では政治家や王族のそっくりさんや人形が登場するテレビ番組が昔からあり、サッチャー政権時代には、首相が急死して葬式が行われたという設定の人形劇が風刺番組として放送された。その内容とは、弔問客に神妙な顔を装いながらも喜びを抑えきれない女性がいて、よく見るとエリザベス女王。最後は女王が高笑いするというストーリーで、実は『女王と首相の不仲』という周知の事実を“チクリと刺す”批判精神に富んだ風刺だった。人が死んで高笑い。しかも女王陛下という不謹慎な内容だが、放送に対して批判も抗議もなかった。権力者を『さもありなん』と風刺する笑いは受容される」

●バラエティ番組のイジメ体質が露呈

 その上で水島氏は、小保方氏をパロディの対象としたコントを制作し、結局は放送自粛に至ったフジテレビを次のように批判する。

「風刺の笑いの歴史に乏しい日本では、有名人を登場させても弱った人をこき下ろすだけの低俗な笑いになりがちだ。今回のフジテレビのパロディは、小保方氏が大物政治家のような『公人』でなく、『私人』に過ぎない点でも問題だ。『阿呆方さん』という名称からして、誹謗中傷で本質を“チクリと刺す”という風刺とは根本的に違う。『私人』と『公人』、『権力者』と『弱者』の区別がつかないフジテレビの制作者が、風刺=知的な笑いを理解せず、今回の事態を招いた。現在の小保方氏は『水に落ちた犬』であり、それを笑うのはイジメだ。日本のバラエティ番組のイジメ体質が現れている。批判精神を持って風刺の笑いを狙うなら、相手は安倍首相などの権力者なのに、弱い対象を選ぶ。フジテレビは抗議で初めて間違いに気づいたはずで、放送しなかったのは当然だ。風刺に必要な『覚悟』もなかったので放送もしない。日本でも大物政治家を登場させて本質を突く、本来の風刺をもっと広げてほしい」

 問題となっているコントが一部から批判を呼んでいることについて、『めちゃイケ』にレギュラー出演しているお笑いタレント・岡村隆史(ナインティナイン)は、5月9日1時~放送のラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)に出演し、「別に小保方さんを小バカにしたようなネタではまったくなかった」「恐らく小保方さん、このコーナー観たら、多分笑ったと思う」と釈明。これに対し、小保方氏の代理人である三木弁護士は同日、「『阿呆方さん』はひどいし、それがネットに残ってるのをどうしたらいいのかという問題はあります」と反論している。
(文=編集部、協力=水島宏明/法政大学社会学部教授)