はじめてのムーミン 一家の物語、ユーモア交え奥深く

[掲載]2014年05月12日

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はじめてのムーミン

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女優のミムラさん

表紙画像 著者:トーベ・ヤンソン、山室 静  出版社:講談社 価格:¥ 734

 可愛いだけじゃないんです。落ち込んだり、ふらっと旅に出たり――。森と湖の国、フィンランドのどこかにある谷で暮らすムーミンたちの物語は奥深く広がっている。
 フィンランドは第2次世界大戦下、ソ連とドイツという大国に挟まれ、不安定な政情だった。厳しい言論統制の下、20代のヤンソンはいくつかの風刺雑誌でイラストレーターとして活躍。ヒトラーの風刺画を描いたことも。ヤンソンの母語はフィンランド人口の約6%にすぎないスウェーデン語で、少数派ならではの悩みもあった。
 ムーミンが出版物に初めて登場したのも、風刺雑誌。妖精でもカバでもない、架空の生き物だ。
 目の当たりにした戦争の暗い現実から逃れるように、ヤンソンは童話を書き始めたが、初期のムーミンはちょっと不気味だった。1945年に発表された童話第一作のムーミンは体がやせ、鼻も細かった。54年、当時世界最大の発行部数だったロンドンの夕刊紙でマンガの連載が始まり、世界中で人気を博すようになった。
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 ムーミンは日本で何度かアニメ化された。最初は69年からフジテレビ系列で放送された。「ねえ、ムーミン」から始まる主題歌(井上ひさし作詞)と岸田今日子さんのムーミンの声が、記憶に残っている人も多いだろう。
 さらに90~92年にテレビ東京系列で放送された「楽しいムーミン一家」(全104話)は世界約100カ国で放映され、母国フィンランドでも人気になった。
 原画では色がついていないムーミンたちだが、アニメでは子供が見分けやすいように彩色された。
 ムーミン好きが高じてフィンランドに移住して20年になる現地コーディネーターの森下圭子さん(45)によると、放映当時、「色がついてるなんて、ムーミンの世界を台無しにしている」と憤る声がヤンソンの友人からあがったという。「でも、ヤンソンは『このアニメで何百万という子供たちが笑顔になるの。最高じゃない』と答えたそうです」
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 童話シリーズ8作目で、一家は住み慣れた谷を離れる。平和な日々に飽き飽きして、新たな活躍の場を求めたムーミンパパに率いられ、灯台のある小島に移り住んだ。
 そして最終作。秋の気配に覆われた谷で一家を懐かしむスナフキンやミムラねえさんたち。一家が乗ったとみられるヨットが見えた場面で物語が終わる。
 ムーミンたちは本当に谷に戻ったのか、その後はどうなったのか。ベールに包まれたままだ。
 ヤンソンの著書を多数翻訳している聖心女子大の冨原真弓教授は「続編を期待するファンの声もあったようだが、ヤンソンは児童文学の範囲内でできることを9作で書ききったのでは」と推測する。
 子供向け童話と思いきや、家族の葛藤や焦り、老いや死、嫉妬なども描く。「ユーモアや象徴を使って、奥が深い内容を品良く伝えている。子供が読んでも大人が読んでも楽しめる。それがムーミンの魅力です」(伊藤恵里奈)
 <読む> 童話や絵本は講談社や徳間書店から出版されている。長年親しまれてきた青い鳥文庫版は新装版が続々刊行され、コミックス全14巻は筑摩書房から。ヤンソンは小説も手がけており、『旅のスケッチ:トーベ・ヤンソン初期短篇集』(冨原真弓訳、筑摩書房)が6月に発売予定。
 <訪ねる> フィンランド・タンペレ市美術館所蔵の原画など約200点を展示する「MOOMIN! ムーミン展」は盛岡で開催中。今後、米子、札幌、広島、米沢、大阪、宮崎、岡山、名古屋を巡回予定。ヘルシンキ・国立アテネウム美術館での大回顧展を招致する「生誕100周年 トーベ・ヤンソン展」はムーミン関連のほか、油彩画や挿絵、写真など約200点を展示。10月から横浜、帯広、新潟、北九州、大阪で開催予定。
 ■思春期の自分ともろかぶり 女優・ミムラさん
 芸名を考えるとき、たまたまムーミンの百科事典が手元にありました。カワイイし、呼びやすい。そんな動機で名前をお借りして10年になりました。
 ミムラねえさんは女性であることを謳歌(おうか)していますね。こんなふうに生きられたら楽しいだろうな。おてんばだった私自身からは結構遠いですが。
 ムーミンの物語を最初に知ったのは幼稚園の頃。かわいいけど、怖い。絵だけみて「妖怪だ」と思った。小学生になり、シリーズ全作を読みました。みんな、容赦なく怒ったり泣いたりするのにびっくり。
 ムーミンは頑固でちょっとかっこつけで、失敗していじける。思春期の自分ともろかぶりでした。ヤンソンさんが10代の子供たちに向けて、等身大のキャラクターを作ったんでしょう。その凡庸な主人公の脇で、他のキャラクターが魅力的に動いている。最終巻「ムーミン谷の十一月」はムーミン一家が出ていない。あれこそ真骨頂。一番好きです。
 ぜひ原作を読んでみて。私は年1度は必ず読み返します。友達にも本を配っておすすめしています。名前をお借りした、せめてもの恩返しの気持ちです。

この記事に関する関連書籍

たのしいムーミン一家 (新装版) (講談社青い鳥文庫)

著者:トーベ・ヤンソン、山室 静/ 出版社:講談社/ 価格:¥734/ 発売時期: 2014年04月



ヤンソンとムーミンのアトリエ

著者:木之下 晃/ 出版社:講談社/ 価格:¥2,160/ 発売時期: 2013年10月


ムーミン谷の名言集 (講談社文庫)

著者:トーベ・ヤンソン、ユッカ・パルッキネン、渡部 翠/ 出版社:講談社/ 価格:¥637/ 発売時期: 2014年04月


ムーミンマグ物語

著者:講談社、萩原 まみ/ 出版社:講談社/ 価格:¥2,916/ 発売時期: 2014年04月


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