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「小山田二郎」展 社会風刺経て幻想表現

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2014/12/10付
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 人間の内部にある不安や矛盾をえぐり出すように表現した画家、小山田二郎(1914~91年)の生誕100年を記念する「小山田二郎」展が、東京・府中の府中市美術館で開かれている。

 小山田二郎は特異な感覚を持つ画家である。心の中に渦巻く不安や孤独、コンプレックス、あるいは社会に対する違和感を、奇妙にゆがんだ肉体や亡霊のような生き物の形を通して表現する。その油彩画や水彩画は1950年代の美術界の前衛表現の一翼を担った。

 聖母マリアやキリストを思わせる人物をデフォルメして描いた一連の作品は、その社会風刺的な作風を象徴する代表作。「母」では深い愛で世界を包んでいるはずのその顔はどこかうつろで、背後には髑髏(どくろ)のようなものが山と積まれている。太平洋戦争の生々しい記憶を背景に、人間の救いがたい業をあぶり出す時代の表現である。食卓を前に、やせ細った人間が、なけなしの食べ物を口にする「食卓」にもシニカルな社会風刺の姿勢が色濃い。戦争や食料難などに翻弄される人間の姿は異様にデフォルメされ、画面にはおびただしいスクラッチ(引っかき傷)の跡が走る。

 60年代になると、画家は、より幻想的な色彩表現へと作風を進化させている。

 「人形の家」は、赤と黒の背景の中に、小さな顔を持った生き物が、ひしめきあうように身を寄せている。60年、府中市の多磨霊園近くに自宅兼アトリエを構えた小山田の家族の肖像のようでもあり、様々な精霊を身近に感じることができる夜の霊園での幻想とも見てとれる。

 こうした個人の内面へと沈潜するような表現は、50~60年代の水彩画により顕著で、そこで小山田は、深い生命の歌を響かせる無類の色彩画家となっている。

 展示はほぼ制作年代順に4章で構成するが、晩年の80年代になっても色彩と造形感覚は衰えを見せない。そこにこの特異な画家の力量がうかがえた。2月22日まで。1月10日から展示替え。

(編集委員 宮川匡司)

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