再読 こんな時 こんな本

書店員に聞く 「風刺」の力

[文]山内浩司  [掲載]2015年04月11日



 【諷刺(ふうし)】弾圧が怖くて韜晦(とうかい)すればするほど文学的には名作になる(筒井康隆『現代語裏辞典』から)。そんな皮肉な定義もあります
が、何となく息苦しい時代、「風刺の力」を感じさせる読み物を、改めて読み返してみたいと思います。
■紀伊国屋書店・川口健人さんに聞く
(1)短くて恐ろしいフィルの時代 [著]ジョージ・ソーンダーズ [訳]岸本佐知子
(2)山椒魚戦争 [著]カレル・チャペック [訳]栗栖継
(3)風刺漫画で日本近代史がわかる本 [著]湯本豪一
(4)東海道戦争 [著]筒井康隆
■複雑な読後感を味わう


描かれる。川口さんはこれを「原発」に置き換えて読んだという。「科学は万能ではなく、自身の限界を常に認識していることが科学的態度なのではないか。
その意味において本作が古びることは決してないだろう」と語る。
 (3)『風刺漫画で日本近代史がわかる本』は、戊辰戦争からサンフランシスコ平和条約締結まで、新聞や雑誌に掲載された200点以上の漫画を通して、
ジャーナリズムが当時の事件や流行をいかに切り取ったかを伝える記録だ。「批判を封じ込める社会は暴走する」と川口さん。風刺漫画は滑稽な味付けで、政
治や社会の風潮をわかりやすく鋭く解説するのが真骨頂だが、時に権力や多数派に迎合したこともあった。「それを承知で見直すと、当時の世相が押し花のよ
うに残っている。100年後の世界へ私たちは何を残せるのだろう」と川口さんは自問する。
 記者が思春期のころ、風刺やパロディーの面白さに開眼したのは、筒井康隆の作品のおかげだった。例えば、初期の作品集(4)『東海道戦争』に収録され
ている「堕地獄仏法」は、宗教団体を支持母体とする政党が支配する、「表現の自由」が失われた暗黒社会を痛烈に活写する。今読んでも(というか、今の時
代だからこそ?)「大丈夫なの……これ」というにおいがプンプンする。
 思うに、風刺とは人を不快にさせたり、傷つけたりすることと表裏一体で成立している表現なのだろう。その自由は、いかにあるべきなのか、その線引きの
難しさは近年増しているように思える。書籍では昔の作品集が入手しにくくなっている筒井の小説を読み返しながら、今いちど考えてみたい。
    ◇


ーツが、2013年に発表した「推定無罪」(ビクター、2571円)に収録されている一曲。
 アルバムには某有名シンガー・ソングライター風や某有名ビジュアル系ロックバンド風ソングといった爆笑ネタが満載だが、この曲は1995年という時代
そのものを風刺したような野心的な試みだ。
 阪神大震災と地下鉄サリン事件が起き、日本の底が抜けたように感じたあの年を、当時続出したミリオンセラーのフレーズを巧みに織り込み、♪アリかナシ
か シーソーゲーム 終わりなき日常を生きていた……と歌う。メロディーも90年代のエッセンスを生かし、見事に再現。油断していると懐かしくて泣きそ


* TSUTAYA online

風刺漫画で日本近代史がわかる本

風刺漫画で日本近代史がわかる本

著者:湯本 豪一/ 出版社:草思社/ 価格:¥1,512/ 発売時期: 2011年11月