2015.01.20 Tue

移民、宗教、風刺――フランス・テロ事件を構成するもの

吉田徹 / ヨーロッパ比較政治



たとえば、単純にテロを非難したとしよう。それは翻って、フランス社会におけるエスニック・マイノリティたるムスリムの問題を(意図しなくとも)等閑視
すること意味するか、あるいは等閑視していると指摘されることになる。逆に『シャルリ・エブド』の風刺を非難したとしよう。それは翻って、表現の自由と
いう民主主義社会の原則を非難することになる、と反論されかねない。ではムスリムの問題に焦点を当てようとすれば、今度は宗教とテロを無媒介に結びつけ
ると指摘されるだろうし、表現の自由を擁護すれば、では差別や憎悪表現も許されてしまうのか、ということになる。



以上を承知の上で、このテロ事件を構成しているものは何なのか、それがどのような文脈や背景のなかで生じたのかについて、いくつかの手がかりを提示する
ことで理解に努めたい。このことは、まずフランスにおける移民、宗教(イスラム教)、風刺の問題、そしてテロの問題(いずれも日本人には馴染みが薄い)
を、個別に分けて論じることを意味する。もちろん、それぞれについて論じることのできる程度や深さには限界があるし、どの問題にも専門家がいる。ここで
の内容には初歩的な知識も含まれているが、それでもテロ事件を考える際に、そして日本での報道の正確さの程度を計るための、さしあたっての導入になるも