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応用物理学会会長 尾浦憲治郎

会長メッセージ

応用物理学会のさらなる発展に向けて

応用物理学会会長 尾浦憲治郎


1. はじめに

このたび,応用物理学会の総会において会長に選出され,2006年度と2007年度に会長の任を負うことになりました.この機会に,会員の皆様にご挨拶とご協力のお願いを申し上げます.
本会では,74年の歴史を通じ,学術の振興,技術の発展による社会と産業への貢献,相互啓発と人材育成による教育貢献などを目指したさまざまな活動が,会員の皆様の創意と工夫により活発に展開されてきました.今や,理工系の代表的学会の一つにまで成長し,研究者・技術者の交流の場として大きな役割を果たすに至っています.私自身も40年近く前に入会して以来,春秋の学術講演会や分科会,英文論文誌JJAPや機関誌「応用物理」などを通じて,さまざまな研究者や著作から多くを学び,成果発表を行い,研究者として成長し自立するうえでかけがえのない機会を得ており,深く感謝しています.
本会がこれまでに築いてきた基盤の上に立って,今後とも発展し続けるように,会長としてできる限りの努力と工夫をする所存です.特に今期は,(1) 会員満足度の向上,(2) 人材育成と教育貢献,(3) 社会への貢献と情報発信,(4) 国際化の推進とアジア地域との連携,(5) 学術・技術の深化と融合による新領域の開拓,などの課題について重点的に取り組みたいと存じます.会員の皆様にはこれからも知恵と熱意をご提供いただき,本会がその使命を果たせるようにご協力とご支援のほどお願い申し上げます.

2. 会員満足度の向上

本会には,現在,約2万4千名の個人会員と約400の法人会員が入会しています.所属機関も多種多様であり学会に対する期待・要望もきわめて広範囲にわたっています。いうまでもなく,本会としては会員の皆様のご期待やご要望に応えることが最も重要な課題であり,引き続いて今後もよりいっそう努力する所存であります.
春と秋の学術講演会は,最新の成果発表や研究動向調査の場として有意義に活用され,年間1万6千名という多くの参加者を得ています.講演件数の約2倍の方々が参加されている事実は,非会員も含め講演会に対する関係者の期待が非常に大きいことを如実に物語っています.今後は発表の質の向上,新しい融合・境界分野の積極的な取り込み,いっそうの国際化への取り組みなどが求められます.
毎月送付されてくる機関誌「応用物理」を開封するたびに自分が会員であることを意識される方が多いと思います.毎号,広範なテーマについて最新の研究動向などの解説記事やニュースが紹介され,会員が多くのことを学び仕事に役立てるうえで果たしている役割は大変大きなものがあります.今後は,従来からも指摘されていることではありますが,読みやすい記事に対する要望に応えることが求められます.本会には広い専門分野がありますが,研究最前線の記事に加えて,少し専門が異なる会員にも理解しやすい記事,あるいは,研究の第一線から退いた会員にも読みやすい記事などが毎号いくつか含まれるようになれば,より多くの会員の満足度が向上すると思われます.
英文論文誌JJAPは得られた研究成果・学術情報の公開・流通・共有の場として多くの会員に活用され,年間1万ページの規模に達しています.一方では海外誌との厳しい国際競争にさらされており,わが国の優れた論文のかなりの割合が海外誌に掲載されているのが現状でもあります.この問題は研究者や研究機関に対する評価のあり方とも関連し大変難しいものではありますが,英文論文誌の発行とその発展は学会の大きな使命でもありますので,会員の皆様のご理解とご協力を切にお願いいたします.
最後になりましたが,法人会員サービスについて触れたいと思います.これまで,法人会員から本会へのご意見やご要望をお聞きする機会は特に設けておりませんでしたが,今後はそのような取り組みを通じて法人会員サービスに努め,企業との連携強化にも努力したいと思います.

3. 人材育成と教育貢献

本会には,大学院学生から研究歴50年を超す会員まで幅広い年齢層があり,その所属も企業(約5割),大学(約4割),公的研究機関(約1割)に分布しています.これらの会員が,講演会に参加し機関誌やJJAPを閲読していますが,本会では,各会員の能力がさらに高められ,よりよく生かされる状況を学会の内外で作り出すための努力を進めています.5年前から始まった男女共同参画活動はそのような取り組みの一環ですが,今期からは,男女共同参画活動をさらに強力に推進するとともに,広く人材育成の視点
から,ポスドク・大学院学生を含む若手研究者・技術者を取り巻く環境の改善,企業や大学などで第一線からリタイアした有能なシニアの活躍の場を構築する活動などにも,積極的に取り組みたいと思います.また,本会は教育公益活動の柱の一つとして,リフレッシュ理科教室を各地で開催してきましたが,本年でちょうど10年となります.関係者の知恵と熱意のお陰で好評を博していますが,今後も各地の中学・高校の先生方とも協力し,実験や制作体験をもとに理科の面白さを伝える努力を進めます.

4. 社会への貢献と情報発信−社会から見える学会へ−

応用物理学に関連する研究者の相互利益を図る手段としてスタートし運営されてきた本会も,理工系の有力学会の一つにまで成長してきました.今後は,広く社会への貢献を意識した公益法人としての活動も求められます.そのためにも,活発な本会の活動を学会の内側に閉じることなく,広く社会に知ってもらうための広報活動も重要な課題となっています.

5. 国際化の推進とアジア地域との連携

本会の英文論文誌JJAPの掲載論文数は年間約2500編ですが,昨年はその三分の一がアジア地域を中心とする海外からの論文で占められるまでになりました.また,春秋の講演会でも海外からの発表件数がかなり増加しています.これらは本会の国際化が現場から進んでいることを示しており大変喜ばしいことと考えます.本会としては,このような動きをいっそう促進するための組織的な取り組みを進めるとともに,特にアジア地域との連携をさらに構築することが望まれます.

6. 学術・技術の深化と融合による新領域の開拓

本会では,光学,真空,放射線など歴史ある領域からレーザー,半導体,プラズマ,薄膜,有機材料などに至るきわめて幅広い分野の研究活動展開の場を提供し,各会員が多くのことを学び仕事に生かしてきました.今後も,学術・技術の深化に向けた活動の場を提供し続けるとともに,専門分野の融合を通じた新しい学術領域やそれらを活用する技術分野を開拓することを意識しながら,本会の活動を進めます.

7. おわりに

本会の源流は,1932年7月創立の「応用物理談話会」が工政会出版部と提携して同年7月に創刊した月刊雑誌「応用物理」にあります.ちなみに法人としての応用物理学会の設立は1946年であり,学会設立に14年先だって機関誌の前身が創刊されたことになります.したがって,本年2006年は学会設立60周年,来年2007年は機関誌創刊75周年に当たります.従来から,学会設立や機関誌創刊を起点にした節目に記念行事が実施されてきましたが,今回は2007年に「応用物理」創刊75周年記念事業を実施することになり,その準備を始めています.会員の皆様と共に,本会の過去の足跡をふり返ると同時に,将来のさらなる発展の指針を探る機会にしたいと思います.
本会は2万5千名近い会員を擁するにもかかわらず,会員数の少なかったころの手作り学会の性質を色濃く残していますが,そのことが本会の活力の源泉となっています.さまざまな所属,多様な年齢層の会員のそれぞれが,知恵と時間を提供して学会を活用しようとする熱意が強く,これによって学会活動が推進される本会の伝統は今も生きています.学会本部では,経験豊かで熱意のある専任職員約10名と有能で使命感に満ちた理事20余名とが緊密に協力し,学会の諸業務の円滑な遂行に努めていますが,本会の魅力や存在意義をさらに高めるには,会員各位の積極的な参画が不可欠であります.ここに改めて皆様のご支援をお願いし,就任の挨拶といたします.


※ 大阪大学超高圧電子顕微鏡センター
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