社会学

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社会学(しゃかいがく, sociology)とは、社会現象の実態や、現象の起こる原因に関するメカニズム因果関係)を解明するための学問である。社会的な文脈における、人間、及びその集団や、人と人との関係、さらには、より大規模な社会の構造を研究する学問ということができる。あるいは、思想史的に言えば、「同時代(史)を把握する認識概念(コンセプト)」を作り出そうとする学問である。この学問の研究者については、社会学者といわれる。

社会学([仏]sociologie = [羅]socius + [希]logos)という用語は、 オーギュスト・コント(Auguste Comte, 1798年 - 1857年)によって作られたといわれている。コントの意図した社会学とは、歴史心理学及び経済学を含む、人類の活動に関する学際的な研究分野であった。日本語にはもともと社会という単語はなく、世間や浮き世などの概念しかなかったが、明治時代に福地桜痴がsocietyという英語を社会と訳して今日にいたる(福沢諭吉が訳との説があるが、これはおそらく『翻訳語成立事情』という本の誤解)。今日、社会学は社会にまつわる、人間集団の構造と行動行為)を主な研究対象としている。

目次

[編集] 社会学の目的

社会学は本来、さまざまな社会現象の実態や、現象の起こる原因を解明するための学問である。社会学の目的として、秩序問題、すなわち社会秩序がなぜ成立しているかについての研究を、とくに重視することもある。これは社会秩序や、何らかの社会への協力行動と関連する研究であり、治安犯罪逸脱行動社会統合利他的行動向社会的行動環境配慮行動研究、社会的ジレンマ研究などと呼ばれる研究分野である。この研究分野は社会心理学小集団実験と関連する研究も多い。

秩序問題とは別に、産業構造労働市場の構造、社会階層構造、学歴不平等の構造、家族地域社会の構造、権力構造多文化社会の構造や問題点、女性差別人種差別など、社会の構造について研究がなされることも多い。社会構造やその時代的変化、すなわち社会変動の研究も、社会学の主要な分野の一つであり、主として大規模な調査データを元に、研究成果を挙げている。社会変動研究は、もともとマルクス主義的研究が多かったが、今日ではそのような研究とは別に、脱産業社会におけるさまざまな社会現象とその変化に関する研究が行われている。

しかしながら、日本では長年、海外の理論を輸入することが社会学の目的とされてきたため、現実の社会現象の解明には、必ずしも積極的でない研究者も多い。むしろ哲学的議論や、理論のみの研究、歴史や学説史のみを重視する研究も、いまだに多数存在するのが事実である。例えば東京大学や京都大学、早稲田大学、慶應義塾大学などの伝統ある社会学研究部門では、理論研究者は多いが調査経験は少ない教員が多く、専任教員だけでは社会調査教育や社会調査士資格に対応できない現実もある。それらの大学では、教員の多くが理論の輸入や解釈を主目的としているため、新しい知見の発見は困難である。そのため国際学会での発表経験が乏しいか、発表能力がほとんどない教員も多い。このような深刻な事態の背景には、かつて日本の大学に予算や調査能力がなかった時代には、理論研究のみしかできなくても、やむをえなかったという事情もある。しかし今日では、現実社会と距離のある抽象的な理論社会学研究に対しては、かなりの社会的批判が存在するのも事実である。本稿の記述も以下を見ると歴史的な内容が多く、大規模な社会調査の内容には対応できていないのである。日本の社会学は政策への影響力は少なく、多くの社会学者には政策形成や提言能力はない。しかし近年では、社会調査の実施能力や、現実のデータを分析する研究も重視されつつある、と言えなくもない。以下のように、日本の社会調査の中には、国際的に高く評価されているものもある(社会学の方法の項を参照)。最近では社会調査士資格など、社会調査法への対応の努力もあり、大学によっては充実した教育を行っている。東北大学関西学院大学大阪大学などは社会調査に関する研究教育が評価され文部科学省COEに採用されたほか、国際学会での発表実績もある。

[編集] 社会学の対象

研究対象は、人間行動行為)や相互作用、役割、集団や組織研究、家族、コミュニティ、より大規模な社会構造社会変動などである。研究分野の一つは秩序問題、つまり社会秩序や、何らかの社会への協力行動と関連する研究である。治安や犯罪、逸脱行動、社会統合、利他的行動、向社会的行動、環境配慮行動研究、社会的ジレンマ研究などもこれに含まれると考えてよい。この研究分野は社会心理学や小集団実験と関連する研究も多い。日本においてはこれまで社会の分裂や治安が問題になることは少なかったが、近年ではやや注目されている。数理社会学合理的選択理論により、この研究に取り組むこともある。

他の研究分野として、様々な社会構造やその時代的変化、すなわち社会変動の研究がある。もともとマルクス主義社会学では資本主義社会から革命を経て共産主義社会が実現することを、主要な社会変動として想定していた。しかし多くの先進諸国ではそのようなことは起きなかった。ベルリンの壁崩壊や共産主義各国の経済低迷、政治腐敗のためマルクス主義的な研究は沈滞していると言わざるをえない。高度経済成長期以降の日本の社会学では、産業化、都市化、高学歴化という社会変動を扱うことが多い。その他、最近では、大衆化、少子化、高齢化、情報化など、個別具体的な社会変動を研究することが多い。 社会システム論は、社会構造社会変動を理論的にとらえるためのものだが、抽象的議論が多く現実の社会を分析するためにはあまり役に立たないため、誇大理論と批判されることも多い。経済システム政治システムの研究に比べ遅れていると言わざるを得ない。構造機能主義のような研究も最近では盛んではない。むしろ、情報化や科学技術が社会にどのような影響を与えるかについての個別具体的な研究、たとえば遺伝子組み換え技術や電子マネーインターネット、文化産業などが社会に与える影響が注目されている。

[編集] 社会学の方法

社会学は、現実の社会からデータを取らなくてはならないため、さまざまな方法が考えられている。主として社会調査が用いられるが、調査の他に、実験、観察、内容分析(文書や映像資料等の分析)、マクロデータ(集計された統計データ)の利用などの手法がある。どれも一長一短があるが、それぞれが重要な研究手法である。

日本の社会調査は、これまでは比較的、回収率もよく、データの質もよく、国際的にも評価が高かった。「社会階層と社会移動全国調査」(SSM調査)や、家族社会学会による調査など、社会学者による大規模な調査も存在する。統計数理研究所による日本人の国民性調査や、日本版総合社会調査(JGSS調査)なども存在する。SSM調査の成果は、米国で数冊の本が出版された他、韓国や中国でも翻訳が出版されており、国際的にも高く評価されている。例えば原純輔・盛山和夫による『社会階層』は韓国、中国、米国で出版されている。詳しくは「社会調査」の項を参照。

米国の社会学においては、公開されている既存の社会調査データが多いこともあり、大規模なデータファイルの計量分析をもとにした計量社会学が、近年では非常に盛んである。アメリカ社会学会の機関誌American Sociological Review (ASR)も論文の7割前後が計量分析を用いた論文である。実験や観察、質的調査による研究、理論研究などもあるが、最近はやや沈滞気味で数は多くはない。米国では理論だけの研究はほとんどなく理論と実証の往復が重視される。質的調査は米国において1990年代以前に小規模な流行があったが、米国では社会学における科学主義実証主義の考え方が強いためあまり重視されず、とくに2000年以降は研究は少ない。具体的な測定法や分析法の開発が不十分なため研究結果が信頼されず、グラウンデッド・セオリー等の考え方も減少傾向である。

近年の日本においては、著者が読書した本を「参考文献」と称して引用し、その引用の上に多少の個人的私見を述べるのみの書籍が大多数であり、例外は少ない。またそれらの書籍は、欧米に住んだことがないか、せいぜい数年住んだだけで現地の人とあまり接しておらず、現実社会を知らない社会学者が、文献研究だけを行い欧米の社会を語ることが多いため、抽象的で的はずれな議論が目立つことも事実である(「反社会学講座」)。多くの社会学者は翻訳作業か、実証抜きの自己満足的理論作りをするのみで、海外での発表能力や基礎的な統計処理能力さえない。ただし、翻訳作業が多く実証研究が少ないのは、日本の経済学や政治学など社会科学全般に見られることであり、社会学者に限ったことではない。

全体としてみれば、日本の社会学者が国際的に研究成果を発信することは少なく、海外の学会での発表も多くはない。ただ、近年は、東北大のグループや高坂健次らによる英文での出版や、日本人によるRationality and society誌への論文掲載などもみられるようになってきた。また、将来、国際社会学会大会の日本での開催が予定されており、世代交代とともに、上述のような状況も大きく変わりつつある。

[編集] 歴史

社会学の歴史は、様々な形で記述することができるが、通常次のようなものが含まれる。

[編集] ヨーロッパにおける先駆的な思想、研究

上述のコントの思想は、その師であるサン・シモンに遡る。一方、コントの方法はジョン・スチュアート・ミルハーバート・スペンサーカール・マルクスなどに受け継がれ、それぞれ独自に社会についての包括的な把握が試みられた。もともとは哲学の一分野として、社会をどのような概念として認識すればよいか、あるいは社会を一つの生物のように認識するための考え方(社会有機体説)に関する研究が盛んだった。

[編集] ヨーロッパにおける著名な社会学者の台頭

19世紀末から20世紀にかけて、マックス・ウェーバーエミール・デュルケームヴィルフレド・パレートゲオルグ・ジンメルらが相次いで研究著作を発表した。その方法論、キー概念などがその後の社会学に受け継がれることになる。

[編集] シカゴ学派の誕生

20世紀初頭まではヨーロッパが社会学の主流を成していたが、第一次世界大戦後にはアメリカにおいて顕著な展開を見せ、やがて社会学研究の中心として発展を遂げていくことになった。

アメリカ社会学が、社会学研究の中心的地位を築き上げる背景には、19世紀末から20世紀初頭にかけての急激な経済・社会の変化があった。南北戦争から第一次世界大戦へ至る半世紀の間にアメリカ産業は急ピッチな発展を遂げ、それに伴って都市化が進行し、民衆の生活様式も大きく変わっていった。このような大きく変貌を遂げるアメリカ社会の実態を捉えることが、社会学の課題として要請されるようになっていったのである。

当初アメリカの社会学は、1893年に創設されたシカゴ大学を中心に、人種移民をめぐる問題、犯罪非行労働問題、地域的コミュニティの変貌などの現象的な側面を実証的に解明する社会心理学都市社会学が興隆していった。アルビオン・スモールウィリアム・トマスジョージ・ハーバード・ミードロバート・パークアーネスト・バージェスルイス・ワースら、有能な研究者たちの活躍によって、1920~30年代にシカゴ大学は、アメリカの学会において強い影響力を及ぼすようになり、シカゴ学派と呼ばれる有力な研究者グループを形成するまでになった。

ヨーロッパの社会学は観念的・方法論的側面を重視する傾向が強かったが、アメリカ社会学は現実の問題を解決する方向性を示すという実践的側面が強い。それは有用性を重視するプラグマティズムの精神的な伝統によるところが大きく、また、前述のような社会的要請もあって、地域社会家族などの具体的な対象を研究する個別科学としての傾向を持つようになった。

[編集] 機能主義社会学の台頭

第二次大戦後のアメリカにおいて、タルコット・パーソンズロバート・キング・マートンらによる機能主義が提唱され、社会学全体に大きな影響を及ぼした。特にパーソンズの社会システム論は、社会学における統一理論を築き上げる意図を持って提起され、多くの社会学者に影響を与え、20世紀半ばにおける"主流を成す見解"となったとされるが、実態がそのようであったのかは大きく疑問である。これは分野の統一、体系化が実現するかに見えた社会学の稀有な時期であるとされる。

しかしパーソンズの理論は、その科学論的・政治思想的な構想があまりに遠大かつ複雑であったことから、正しく評価されたとは言えず、また、合理的選択論のケネス・アローらが指摘したように、パーソンズ自身が掲げた要求にしたがった理論形成がなされていたとも言えなかった。また、1960年代以降には、「観念的傾向が強い」「現状の体制を維持しようという傾向がある」「個人の非合理的な行為についての視点が欠けている」などといった、半ば誤解混じりの数多くの批判ないし断罪を受けることになった。いずれにせよ、結局、統一理論構築にまではいたらず、その後シンボリック相互作用論現象学的社会学エスノメソドロジー紛争理論など、さまざまな立場から独自の視点に立った理論が提唱されるようになった。

[編集] 多様化

1960年代に機能主義からの離反が起きた後、いわゆるミニパラダイム(この語法は本来は誤りである)の乱立と称される時代を迎えた。現象学的社会学、エスノメソドロジーなどが出現し、社会学が多様化し、研究対象となる領域も拡大はしたが、同時に社会学というディシプリン内部での対話の共通基盤が失われもした。上述のような歴史的文脈が忘却されると、機能主義に対するカウンターとしての意義をもった諸ミニパラダイムは逆に混迷を深めた。一方で、(クーンが本来意図した意味での)パラダイム、すなわち経験的統計データに基づく調査研究は疑問視されることなく確立していったが、他方でかかる研究のよって立つべき思想・視点、つまりは社会学の独自性とは何なのかという問題は依然として不明なままに推移している。

1960年代にパーソンズのもとに留学し、ドイツに帰国後、社会学者として活動を開始したニクラス・ルーマン、1990年代末以降の英国ブレア労働党政権のブレーンとして名を馳せたアンソニー・ギデンズらは、それぞれ異なった系譜からではあるが、政策科学としての社会学という立場を打ち出した。すなわち、ルーマンの場合であれば、科学的にSollen(~すべき)を言わなければならない行政学の伝統を継承する形で、ギデンズの場合は、社会問題への関与をことするイギリス社会学の伝統とリベラリズムの政治思想への関わりから、そうした方向性をとり、それぞれに反響を呼びをしたが、広がりをもつものにはなったとはいえない。

[編集] 主な学派・理論

[編集] 連字符社会学

社会学が対象とする領域が幅広いため、特定の分野を扱う連字符社会学カール・マンハイムの命名による)が大量に発達することになった。その分野の歴史や他の学問への影響、方法論などはさまざまである。以下は連字符社会学の一例。

[編集] 主な社会学雑誌

[編集] 国外

  • American Journal of Sociology - 1895年刊
  • American Sociological Review - 1936年刊
  • British Journal of Sociology - 1950年刊
  • Sociological Inquiry - 1961年刊

[編集] 国内

[編集] 関連項目

[編集] 関連書籍

  • 高坂健次他編『講座社会学』1~16巻 東京大学出版会.
  • 井上俊他編『岩波講座現代社会学』1~26巻+別巻1 岩波書店.
  • 長谷川公一他編『講座社会変動』1~10巻 ミネルヴァ書房.
  • 原純輔他編『日本の階層システム』1~6巻 東京大学出版会.
  • 宇都宮京子編『よくわかる社会学』ミネルヴァ書房.
  • 『反社会学講座』(イースト・プレス) ISBN 4-87257-460-5
  • Kosaka, Kenji ed. 1994. Social stratification in contemporary Japan. Kegan Paul International.

[編集] 外部リンク