#next wezzy|ウェジー RSS Feed wezzy 現代を思案する正解のないWEBマガジン ____________________ [button_search.png]-Submit * facebook * twitter * wezzy › * 連載 › * トランスジェンダーとともに › * トランスジェンダーを加害者扱いする「想像的逆転」 連載 2019.07.15 15:05 後回しにされる「差別」 トランスジェンダーを加害者扱いする「想像的逆転」に抗して 【この記事のキーワード】 * LGBT * フェミニズム * ジェンダー * トランスジェンダー * 社会 * Twitterでツイート * Facebookでシェア * はてなブックマーク 後回しにされる「差別」 トランスジェンダーを加害者扱いする「想像的逆転」に抗しての画像1 「Getty Images」より トランス排除  昨年の夏頃から、ツイッターを中心としたインターネット上で吹き荒れているトランス嫌悪的な(フォビック)言説は、2019年7月現在においても鳴り 止む気配がない。それどころか、その激しさは日に日に増しているように思われる。  堀あきこが「分断された性差別――「フェミニスト」によるトランス排除」で詳しく述べているように[1]、2018年7月2日のお茶の水女子大学のト ランス女性受け入れ報道を発端に、ネット上では女性専用スペースにトランス女性が参入することへの懸念や反発が起こった。また、今年の1月5日には、元 参議院議員の松浦大悟がAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』で野党提出のLGBT差別解消法案を批判するために「男性器のついたトランスジェンダ ーを女湯に入れないと差別になってしまう」と語った。このトランスジェンダーへの「恐怖」をことさらに煽る報道もツイッターなどで拡散された[2]。  これら一連のトランス排除的言説の背景にあるのは、「トランスジェンダーを受け入れれば、男性器のついた人間が女性専用スペースを使えるようになり、 性暴力が増えるのではないか」といった「恐怖」や「不安」である。これらの言説において、トランス女性は「男体持ち」などのカテゴリーで記述され、「性 犯罪目的の男性」と見分けのつかない「性犯罪者予備軍」であるかのように語られている。  私がもっともショックを受けたのは、2019年1月9日に投稿された「ツイッターのせいで高校からの友達が死んだ」という記事[3]である。それは、 あるトランス女性がツイッターにおけるトランス排除・差別が一因で自殺したという内容だった。匿名でなされた記事ということもあり、真偽の程はもちろん 分からない。それでも、この記事を私はかなりのリアリティをもって読み、怒りや悲しみ、悔しさでいっぱいになった。ツイッターにおけるトランス排除・差 別の言説を見ていた私にとって、起こってはならないことがとうとう起こってしまった、というのが実感だった。そして、今後もこのようなことが起こってし まうかもしれないという切迫した状況を、彼女の死は予示しているように思えた。  自殺というものはもちろん、複合的な要因が絡まって生じる最悪の事態であり、「これが原因だ」と簡単に断言できるものではないだろう。だが、他者から の心ない発言が自殺の最後の「引き金」になってしまうことは往々にしてある。言葉はときに人を実際に死に至らしめるのだ、ということは強調してもしすぎ ることはない。この意味で、トランス排除的言説はトランスジェンダーの自尊感情をじわじわと蝕み、最悪の場合には彼女のように生存を奪いかねない言説な のである。 想像的逆転  このようなトランス排除的言説の惨状について、アメリカ合衆国出身で現在日本に暮らしている友人に説明していたときのことである。私は彼女に、ツイッ ター上でトランス女性があたかも「性犯罪者予備軍」であるかのようにみなされ、危険視されている現状について語った。すると、彼女は私にこう言った、「 それって逆じゃない? トランスジェンダーの人の方がこの社会で危険な目にあったり、生きづらい思いをしているのに、どうしてトランスの人の方が危険視 されるの?」と。そうなのだ。この社会はトランスジェンダーにとって生きやすい社会だとはお世辞にも言えない。公共スペースの利用や就労の困難など、ト ランスジェンダーには多くの「普通の人」に保障されている権利が奪われているのが現状である。それなのに、なぜ、この社会で不安定(プレカリアス)(ブ レカリアス)で傷つきやすい(ヴァルネラブル)状況を生きているトランスジェンダーの人たち(とりわけトランス女性)が「犯罪者」扱いされ、あたかも「 暴力を行う側の人間」として表象されているのか。  このような逆転現象を「想像的逆転(imaginary inversion)」と呼ぶことができる。「想像的逆転」とは、社会のなかでより脆弱な(ヴァルネラブル)立場に置かれている者がむしろ加害者側の人 間として表象される逆転のメカニズムを指す。この「想像的逆転」はなにもトランス排除に限った話ではない。例えば、ジュディス・バトラーは論文「危険に さらされている/危険にさらす」で、この「想像的逆転」のメカニズムについてロドニー・キング事件を例に考察している[4]。  ロドニー・キング事件とはロサンジェルス暴動(あるいは蜂起)のきっかけになった事件である。1991年、黒人のロドニー・キングは自動車のスピード 違反で白人の警官たちに呼び止められ、激しい暴行を受けた。その暴行の様子は通行人によって撮影され、裁判でも証拠として扱われた。この事件において重 要なのはその裁判過程である。問題の映像を見れば分かるが(この映像は映画『マルコムX』の冒頭で見ることができる)、キングはうずくまって、白人の警 官たちに四方を囲まれてリンチされている(ように見える)。しかし驚くべきことに、バトラーも述べているように、「多くの人が議論の余地なく警官に対し て不利な証拠とみたものが、シーミ・ヴァレーの法廷では反対に、〔……〕ロドニー・キングが警官を危険にさらしていたのだという主張を裏づけるために提 示された」[5]のである。裁判では、キングの「黒い身体」は「いまにも暴力をふるいそうな身体」として知覚され、したがって白人警官たちの暴力はそれ に対する「正当防衛」と解釈され、彼らは無罪放免になってしまったのだ[6]。キングに対する暴行の証拠として読まれると思われた件の映像は、奇妙な逆 転(inversion)を経て、むしろ白人警官たちの暴力を「正当防衛」として解釈する証拠として読まれたのである。  ここで、もう一人のキングの事件について触れたい。それは、アメリカ合衆国のカリフォルニア州で実際に起こった事件である。当時15歳だった黒人のト ランス女性のラティーシャ・キングは2008年2月12日の朝、同級生のブランドン・マキナニーに教室で射殺された。この事件及びその裁判過程について 、ゲイル・サラモンは『ラティーシャ・キングの生と死――トランスフォビアの批判的現象学』[7]で考察している。そこで彼女が着目しているのは、その 裁判過程において、ラティーシャの化粧やハイヒールといったジェンダー表現が「攻撃的行為」として解釈され、ブランドンによる射殺はそれによって引き起 こされた「パニック」に対する一種の「防衛行為」であると解釈された点である。ラティーシャはある朝、突然、同級生に射殺されたのである。しかし裁判で は、先に「攻撃」を仕掛けたのはラティーシャだとみなされたのだ。ここには明白に、先に「想像的逆転」と呼んだメカニズムが働いていると言えるだろう。 このように、「想像的逆転」とは、より傷つきやすい社会的状況に曝されているマイノリティが奇妙な逆転を経て、むしろ加害者側の人間として表象されるメ カニズムである。  私がここで提起したいのは、現在ツイッターを中心に行われているトランス排除的言説にも同様の「想像的逆転」のメカニズムが認められるのではないか、 ということである。それらの言説においては、トランスジェンダー(とりわけトランス女性)はたとえ何もしていなくても潜在的に「性犯罪」を行う(あるい は、それを誘引する)可能性のある「危険な集団」とみなされている。権力との関係においても数的にもマイノリティであり、不安定で傷つきやすい立場に置 かれているトランスジェンダーの人たちが、奇妙な逆転を経て、「暴力を行う側の主体」として表象されているのだ。そして、だからこそ、トランス排除的言 説はそのような(架空の)「暴力」に対する「防衛」として自らの発言を正当化することが可能になる。そこでは、自らの発言内容は「防衛行為」として正当 化され、その発言が孕む差別や暴力性は等閑に付されるのである。私が懸念しているのは、今後、在日朝鮮人に対するヘイトスピーチやヘイトクライムのよう に、トランスジェンダーの人たちに対する暴力がネット空間の外で実際に行われるのではないかという可能性である。なぜなら、トランス排除的言説の論理に 従えば、「先に攻撃を仕掛けた」「危険な存在」はトランスジェンダーの人たちの方であり、したがってトランスに対する暴力は「防衛行為」として正当化さ れかねないからである。あるいは少なくとも現状においてさえ、トランスジェンダーをじわじわと自殺に追い込むような規範的暴力として、それらの言説は機 能しているだろう。 > 次ページ 1 2 藤高和輝 日本学術振興会特別研究員RPD(大阪大学)。フェミニスト哲学、クィア理論、トランスジェンダー理論が専門。主著に『ジュディス・バトラー: 生と哲学を賭けた闘い』(以文社)、共著に『子どもと教育の未来を考えるII』(北樹出版)。論文に「とり乱しを引き受けること: 男性アイデンティティとトランスジェンダー・アイデンティティのあいだで」(2019, 『現代思想 特集=「男性学」の現在 ー〈男〉というジェンダーのゆくえ』)など。 藤高和輝 「女性専用スペースからトランス女性を排除しなければならない」という主張に、フェミニストやトランスはどう抵抗してきたか 人々のトランスジェンダー嫌悪が少なくなれば、ジェンダー平等感覚の形成は進む 性暴力被害に寄り添う「フラワーデモ」にトランスジェンダーは参加してはいけないのか トランスジェンダーとフェミニズム ツイッターの惨状に対して研究者ができること 「後回しにされる「差別」 トランスジェンダーを加害者扱いする「想像的逆転」に抗して」のページです。LGBT、フェミニズム、ジェンダー、トランス ジェンダー、社会などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。 RECOMMEND コストコ大容量&高コスパのオススメ商品16選! メルカリでクレームに繋がりやすい出品注意のアイテムとは?  テイラー・スウィフトのメディア戦略と理不尽との戦い方『ミス・アメリカーナ』 RANKING (*) ( ) * 政治・社会 * 総合 1. 大坂なおみとエメット・ティル 2. 東京オリンピック「中止」可能性を報じないメディア 3. イギリス・ロックダウン体験レポート 4. 菅総理"ステーキ会食"擁護した橋下徹 5. 遺体を鍋で煮込んだ八王子カリスマホスト 6. 女性アスリートの性的消費、メディアにも問題 7. コロナの影響で売上減の中小企業 8. 著作権法改正、一般ユーザーが気を付けたいこと 9. 菅政権の支持率急落、短期政権へ? 10. ラウンジ嬢テキーラ事件、港区女子の危険な体験 1. てんちむへ賠償金1億を要求する録音データ? 2. 浜辺美波にジャニーズJr.ファンが警戒 3. リトグリ芹奈、心配されていたメンタル不調 4. 華原朋美いまさら小室哲哉の浮気暴露 5. ヒカルがてんちむに「100万円」のチップ 6. 「美 少年」と熱愛、鶴嶋乃愛「匂わせ」炎上 7. 長瀬智也と浜崎あゆみ「異例尽くし」だった熱愛 8. 疲弊しきった松本潤を救った、ワンオクTakaの言葉 9. かねこあや大暴走「てんちむ抱けば穴ぼこだらけ」 10. 迷惑系YouTuberよりひと格闘技イベントで逃亡 人気記事ランキングをもっと見る HOT WORD * 共働き * 主夫 * セクハラ * 日本会議 * ブラック企業 * 貧困 * 貯金 * 男性学 * 性別役割分業 * 住宅購入 * フェミニズム * 家族 * 長時間労働 * 父親 * ジェンダー * クルマ * 差別 * 教育 * LGBT * 炎上 * 生理 INFORMATION ストレスフリーなネット回線で業務効率が一気に改善! 「NUROアクセス」の魅力 ストレスフリーなネット回線で業務効率が一気に改善! 「NUROアクセス」の魅力 美談を疑う子どもたちへ/ヨシタケシンスケさん 美談を疑う子どもたちへ/ヨシタケシンスケさん 男性育休が定着した日本ユニシスの働き方改革 男性育休が定着した日本ユニシスの働き方改革 子育て、イライラしても大丈夫 子育て、イライラしても大丈夫 IFRAME: https://ds.advg.jp/adpds_deliver/p/iframe?adpds_site=messy&adpds_frame= waku_211989 PAGE TOP 月別アーカイブ 2020 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 01月 2019 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 01月 2018 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 01月 2017 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 01月 2016 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 01月 2015 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 01月 2014 12月 11月 10月 09月 08月 07月 06月 05月 04月 03月 02月 01月 2013 12月 10月 09月 08月 07月 06月 wezzyについて * wezzyとは * 会社概要 * 広告に関するお問い合わせ * 記事へのお問い合わせ/情報提供 * 記事配信のお問い合わせ * 著者一覧 * 個人情報保護方針について Copyright © wezzy All Right Reserved. * TOP * 政治・社会 + 自民党 + 社会福祉 + 選挙 * ビジネス + 経済 + 食 * キャリア・仕事 + 仕事 + 転職 * マネー + 投資 + 貯金 + クレジットカード * ライフ + 食 + 育児 + 介護 + 夫婦 + 住まい + 健康 * エンタメ + 芸能 + ドラマ + 映画 + 本 * 連載 + [banner200_200.jpg] 生き延びるためのマネー + [atsuko0316ss.jpg] 情報通・秘密のアツコちゃんの〈アツアツ業界裏話〉 + [kanemoto_prof.jpg] 世界一役に立たない育児書 + [nojiru.jpg] スピリチュアル百鬼夜行 + [kitamura.jpg] お砂糖とスパイスと爆発的な何か + [mitarashikana_prof.jpg] デジタルネイティブ時代のこころの処方箋 + [17270708_818481758290083_370052361_n.jpg] トランス男子のフェミな日常 + [2020americas.jpg] 2020大統領選 アメリカを取り戻す + » 連載コラム一覧» 著者一覧