兎穴を下って # アリスは土手で姉のそばに座っていましたが、何もすることがなかったので、次第に疲れだしました。一、二度、彼女は姉が読んでいる本をのぞいて見たけれども、その本には絵も会話もありませんでした。「じゃ、この本には何の使い道があるっていうの?」とアリスは思いました。「絵も会話もないなんて」 # そして彼女は心の中であれこれ考え始めました(できる限り精神を集中して。というのはこの日は暑くて、彼女はとても眠く、頭が朦朧としていましたから)。デイジーの花輪を作るのは楽しいけど、立ち上がってデイジーを摘みにいくのは面倒だし。すると、その時突然、ピンクの眼をした白兎が彼女の近くに走ってきました。 # それだけでも十分不思議だったのに、さらにアリスは兎がこう独り言を言うのを聞いても、おかしいとは思いませんでした。「やれやれ!遅れてしまうぞ!」。(後で考えてみると、このことは変に思わなければならなかったのに、この時は全てが全く自然なことのように見えたのです)。兎が実際にチョッキのポケットから時計を出して、それを見つめ、そしてまた急ぎ始めると、アリスも走り始めました。というのは彼女はチョッキを着た兎や、そのチョッキから出てきた時計を今まで見たことがない、という思いが心の中にさっと浮かんできたからです。好奇心に駆られて、彼女は兎のあとをついて野原を横切り、幸運なことに、兎が垣根の下の大きな兎穴に飛び込んだのを見るのに、調度間に合いました。 # 次の瞬間、アリスは兎のあとを追って飛び込みました。その穴からどうやって出ようか、とは一度も考えずに。 # 兎穴は暫くはトンネルのようにまっすぐ続いていましたが、突然がくっ、と落ち込みました。余りに突然だったので、アリスは止まろうとする間もなく、とても深い井戸の中に落ちていきました。 # その井戸がとても深いせいか、あるいは彼女がとてもゆっくりと落ちたせいか、彼女は落ちていく間に自分のまわりを見回し、次に何が起こるのかを考えるゆとりがありました。最初に、彼女は下を見て、何が自分を待ち受けているかを見つけようとしました。しかし暗すぎて何も見えませんでした。次に彼女は井戸の壁を見ました。するとそこには戸棚や本棚が一杯あることが分かりました。またあちこちに、留め釘で止められた地図や絵があるのも見えました。彼女は落ちながらある棚から瓶を取り出しました。そこには「オレンジマーマレード」とラベルが貼られていました。しかし残念なことに、その瓶は空っぽでした。瓶をしたに落とし、誰かに当たって死なせてしまうのはイヤだったので、落ちていく間に、また別の戸棚の中に何とか押し込みました。 # 「さて!」とアリスは考えました。「こんなに落ちたんだもの、これからは階段を転げ落ちたって、なんとも思わないわ。家に帰ったら、みんな私のことをどんなに勇敢かって思うでしょうね。ええ、屋根の上から落ちたって、痛いなんて一言も言わないわ」(←それはおそらくそうでしょう) # 下へ、下へ、下へ。いつまでも落ちていくようでした。「もう何マイル落ちたかしら?」アリスは声に出して言いました。「地球の真ん中近くに来ているに違いないわね。えーと。それは4000マイル落ちた、ってことだから、そうすると・・・」(お分かりのように、アリスは学校の授業でこのようなことを幾つか習いました。そこには彼女の話を聞く人は誰もいなかったので、これは彼女の知識を披露する余り良い機会ではなかったのですが、それでも復習には良い練習でした。)「・・・ええ、それが正しい距離だわ。でも緯度と経度はどうかしら?」(アリスは経度も緯度もどういうものか知っていませんでした。しかし、これらは口に出すのにふさわしい重みのある言葉と思ったのです) # まもなく彼女はまた始めました。「落ち続けて、地球を突き抜けたら面白いのにね!頭を下向きにして歩く人々の間に出てきたら、愉快でしょうね!タイ商人、だったかしら・・・(今回は彼女の話を聞く人が誰も居なかったのは、幸いなことでした。それは全く正しい言葉には見えませんでしたから)・・・でもその国の名前を聞かなくちゃならないわ、そうでしょ?済みませんが、こちらはニュージーランドかしら、それともオーストラリア?(彼女は話しながら礼儀正しく振舞おうとしましたが、空中を落ちているのに礼儀正しくなんて、奇妙な話です。あなたはできますか?)・・・すると向こうの人は、なんて無知な小娘か、って私のことを思うでしょうね!駄目よ、そんなことを訊いても意味ないわ。国名がどこかに書かれてないか、見てみることにしよう」 # 下に、下に、下に。他に何もすることが無かったので、アリスはまた喋り始めました。「ダイナは今晩、私が居なくてとても淋しがるでしょうね!(ダイナはネコです)。お茶の時間にミルク皿を出すことを、みんな忘れないといいんだけど。ダイナ!一緒に落ちてくれればいいのに!空中にはネズミは居ないと思うけど、コウモリを捕まえるといいわ。コウモリはネズミとそっくりだもの。ね?でもネコはコウモリを食べるかしら」。そしてここでアリスはちょっと眠くなり、寝言のように独り言をいい続けながら、「ネコはコウモリを食べるかしら?猫はコウモリを食べるかしら?」そして時々「コウモリはネコを食べるかしら?」。お分かりのように、彼女はどちらの疑問にも答えることができなかったので、彼女がどう言おうと問題はないのでした。彼女は眠りに落ちていき、ダイナと手を繋いで歩いている夢を見はじめました。そして熱心に言いました。「さあ、ダイナ、本当のことを言ってごらん。コウモリを食べたことがあるの?」。その時突然、ドスン!ドスン!と、彼女は枝と枯葉の山に落ちました。落下行は終わりました。 # アリスは怪我一つなく、次の瞬間には自分の足で跳ね起きました。彼女は上を見ましたが、頭上には真っ暗でした。彼女の前には別の長い通路があり、あの白兎が急いで行くのがまだ見えていました。ぐずぐずしている時間はありません。アリスは風のようにそこを去り、兎に追いつこうとしました。そして兎が角を曲がる時、こう言うのを聞いたのです。「ああ、耳と口ひげにかけて、こんなに遅れてしまった!」彼女は角を曲がる時には、兎のすぐ後ろに居たのですが、曲がり終わると兎はどこにも居ませんでした。そこは長い、天井の低い広間で、屋根から吊るされたランプの列があたりを照らしていました。 # 広間の周り中に扉が付けられていましたが、みんな鍵が掛かっていました。広間の片方からもう片方へ歩きながら、全ての扉を試してみましたが、駄目でした。彼女は広間の真ん中を悲しげに歩きながら、どうやってここから出ようかと考えました。 # 突然、彼女は全体が硬い硝子で出来た、小さな三本脚のテーブルに出くわしました。そこにはちっぽけな金の鍵のほかには、何もありませんでした。最初、アリスはその鍵がこの広間のどれかのドアのものだ、と思いました。けれどもどの鍵穴も大きすぎたり、または鍵が小さすぎたりして、どんなにしても鍵はどの扉も開けられませんでした。しかしもう一度探してみると、彼女は前には気付かなかった背の低いカーテンを見つけました。その後ろには15インチくらいの小さなドアがありました。彼女はその小さな金の鍵を差し込んで見ました。すると嬉しいことに、それはピッタリだったのです! # アリスが扉を開けると、そこは兎穴ほどの大きさの小さな通路でした。彼女は膝まづいて通路を覗き込みました。するとその先には見たこともないほどステキな庭が見えました。その暗い広間から抜け出して、この明るい花々の蕾や涼しげな噴水の周りを散歩しようと、彼女はどんなに望んだことでしょう。しかし頭さえも扉を通り抜けることができませんでした。「そして頭が通ったとしても、」と可哀想なアリスは思いました。「肩が通らなければ意味ないじゃないの。うーん、望遠鏡のように体が折り畳めるといいんだけど!初めだけ、どのように畳めるか知っていれば、後はできると思うんだけど」。お分かりのように、おかしなことばかりが続いたので、アリスは本当に出来ないことなどほとんどない、と思いはじめていたのです。 # その小さな扉の前で待っていても埒があかないので、別の鍵や、そうでなければせめて人間を望遠鏡のように折りたたむ法則を書いた本でも見つからないかと半分願いながら、彼女はテーブルのところに戻っていきました。今度は小さな瓶を見つけました。(「そんな瓶、前見た時には確かになかったわ」、とアリスは言いました)。瓶の首には紙のラベルが貼ってあり、「私を飲みなさい」という言葉が大文字で美しく印刷されていました。 # その言葉通りにするのは悪いことではありませんが、賢いアリスはそれには飛びつきませんでした。「いいえ。最初にきちんと見なくちゃね」と彼女は言いました。「で、その瓶に「毒」という文字があるかどうか、見なくちゃね」。というのは彼女は、友達が教えてくれた簡単なルールを忘れたばかりに、やけどしたり、野獣に食べられたり、ほかの恐ろしい事柄に見舞われてしまった子供たちの話を、いくつか読んだことがあったからなのです。そのルールとは、こういうものでした。赤く熱い火掻棒は、長く持ちすぎていると焼けどする。ナイフで指をとても深く切ってしまうと、大抵血が出る。そして彼女は、もし「毒」と書かれた瓶を飲みすぎると、遅かれ早かれ、ほとんど間違いなく体に害を与えてしまう、というルールを忘れてはいませんでした。 # しかし、この瓶は「毒」とは印されていませんでした。そこでアリスは思い切ってそれを舐めてみました。とてもよい味でした。(実際、瓶はチェリー・タルト、カスタード、パイナップル、炙り七面鳥、タフィー、そして熱いバター・トーストが混ぜ合わさったような味でした)。彼女はすぐにそれを飲み干してしまいました。 # 「なんてヘンてこな気分かしら!」とアリスは言いました。「私は望遠鏡のように縮んでいってるに違いないわ」 # 実際にそうでした。彼女は今、ほんの10インチしかありませんでした。そして小さなドアを通ってあのステキな庭にいくのに調度よい身長になったことが分かると、彼女の顔は明るくなりました。しかし、初めに彼女は何分か待って、これ以上縮まないかどうかを確かめました。彼女は少し神経質になってました。「だってそうよね」とアリスは独り言を言いました。「蝋燭のように全部消えてしまうかもしれないでしょ。そうなったら、私はどんな風になるのかしら?」そして彼女は蝋燭が吹き消されたあと、蝋燭の炎がどうなっているかを想像しようとしました。というのは彼女は今までにそのようなものを見たことがあるかどうか、覚えていなかったからです。 # 少しして、これ以上何もおきないと分かると、彼女はすぐに庭に行くことにしました。しかし哀れなことに、扉にたどり着いた時、彼女はあの小さな金の鍵を忘れたことに気付きました。そしてそれを取りにテーブルに戻ると、鍵には手が届かないことが分かりました。彼女は硝子ごしに鍵をはっきりと見ることができたし、テーブルの脚をなんとかよじ登ろうともしましたが、それは余りにつるつると滑りやすかったのです。そして彼女は登るのに疲れてしまうと、座り込んで泣きました。 # 「しっかりするのよ、こんな風に泣いたって何の役にも立たないわ!」アリスは少し厳しく自分自身に言い聞かせました。「今すぐ泣くのをやめなさい!」彼女はいつもはとてもよい忠告を自分自身にあたえ(もっとも滅多にそれには従わないのですが)、時には眼に涙を浮かべるほど厳しく自分自身を叱るのです。一度など彼女は自分で遊んでいたクロケットの試合で、ズルをしたといって、自分自身の耳を殴りつけたことすらあったのです。この奇妙な子供は一人で二役をしたがる癖を持っていました。「でも、今は駄目だわ」と可哀想なアリスは思いました。「一人で二役するなんて!もう一人の立派な人間の役をするだけの余裕がないわ」 # 少しすると、テーブルの下に小さな硝子箱があるのが眼にとまりました。開けてみると、中にはとても小さなケーキが入っていました。その上には「私を食べなさい」という文字が、干し葡萄で書かれていました。「では、食べることにしましょう」とアリスはいい、「もし大きくなったら、鍵に手が届くし、もっと小さくなるんだったら、扉のしたから這い出ることができるわ。どっちにしても、庭には行けるし、どっちが起きても気にしないわ」 # 彼女は少しだけ食べて、心配そうに独り言を言いました。「どっちかしら?どっちかしら?」手を頭の上に置いて、どっちが起きるかを感じようとました。そして身長が変わらないことに気付いて、彼女は大変驚きました。はっきり言えば、このことは人間がケーキを食べるときに普通起きることです。しかしアリスは有り得ないことばかりを想像してましたから、そんな風なありきたりの生活が続くことが酷くつまらなく、馬鹿馬鹿しいことのように思えていたのです。 # というので彼女は作業を続け、すぐにケーキを食べ終えてしまいました。 # 涙の水溜り # 「ろんろん、ろんろん、おかしくなっていくわ!」とアリスは叫びました。(彼女はとても驚いたので、ちょっとの間、きちんとした言葉を喋れなくなっていました)。「今や世界一大きな望遠鏡のように、体が伸びているわ!足さん、さようなら!」(というのは足を見下ろしたとき、それはほとんど視野から外れて行ってしまっていたからでした。足は遠くになっていきました)。「私の可哀想な小さな足!誰がお前に靴や靴下を履かせたりするのかしら?私ができないのだけは確実ね!あまりに遠すぎて、お前の世話なんかできないわ。お前はできるだけ頑張って、自分で自分のことをしなくちゃね。でも私は足に親切にしてやらなくちゃ」とアリスは思いました。「でないと足は私の思う方へ歩いてくれないだろうし!えーと。クリスマスには毎回、新しいブーツを買ってやることにしよう」 # そして彼女はどのようにするかを考え続けました。「ブーツは配達してもらわないとね」とアリスは考え、「でもどんなにおかしく見えるかしらね、自分の足にプレゼントを贈るなんて!それにあて先もヘンよ! # 暖炉県絨毯市 暖炉格子区 アリスの右足様 (アリスより愛を込めて) # って、私、なんて馬鹿なことを喋っているんだろう!」 # そう言ったとたん、頭が広間の天井にぶつかりました。実際には今や彼女の身長は9フィート以上になっており、彼女はすぐに小さな金の鍵を取り上げると、庭の扉に急ぎました。 # 可哀想にアリス!腹ばいになって扉から庭を片目で覗き込むのが、彼女にできる精一杯のことでした。しかしそこを通り抜けるのは、これまで以上に不可能なように見えました。彼女は座ってまた泣き始めました。 # 「恥を知りなさい!」とアリスはいいました。「お前のような大きな女の子が」(こう言うのももっともです。今のアリスは9フィートもありますからね)「こんな風に泣き続けるなんて!今すぐ泣くのをやめなさい、命令よ!」しかし彼女は同じように泣き続け、何ガロンもの涙を流しました。仕舞いには彼女の周りには大きな水溜りができました。水溜りは4インチもの深さがあり、広間の半分にまで広がっていました。 # しばらくたつと、遠くの方で何やら小さなパタパタ言う足音が聞こえました。彼女は急いで泣くのを止めて、何が来るかを見ようとしました。それはあの白兎が戻ってくるところでした。片手に羊皮の白手袋、もう片手に大きな扇子をもって、素晴らしく着飾っていました。彼は非常に慌てて駆け足し、ぶつぶつと独り言を言いながら出てきました。「ああ!公爵夫人、公爵夫人!こんなに待たせてしまって、凶暴になってなければいいが!」アリスはやけっぱちになっていて、誰でもいいから助けを求める気になってましたから、兎が彼女の傍に来たとき、彼女は低く、おどおどした声で「済みません、よろしければ・・・」とやりました。兎はびっくりして城の皮手袋と扇子を落とし、できる限りの速さで暗がりに走り去ってしまいました。 # アリスは扇子と手袋を拾い上げました。広間はとても暑かったので、彼女はずっとあおぎ続けながら喋りました。「さてさて!今-日はなんて奇妙なことばかりなのかしら!昨日は普通通りだった。夜のうちに何か私に変化でも訪れたのかしら。考えてみよう。今朝起きたとき、私は同じだったかしら?少し違った気がしたけど。でも私が同じでないとしたら、次の疑問は、一体全体私は誰?ということになるわね。ひー、これって難問だわ!」そして彼女は自分と同い年の、知り合いの子供たちを片っ端から思い出しはじめました。自分が、彼らのうちのどれかに変身してないか、考えながら。 # 「エイダでないのは確かだわ」とアリスは言いました。「彼女の髪は長い巻き毛だけど、私のは全然巻き毛じゃないもの。マーベルではないのも確かだわ。なぜって、私は何でも知っているけど、彼女ときたら、ほとんど何も知らないもの!それに、彼女は彼女で、私は私だし。それに・・・全くこれは厄介な問題ね。知っていることを全部覚えているかどうか、試してみよう。えーと。4かける5は12、4かける6は13、4かける7は・・・待って!こんな調子じゃ、絶対に20までたどり着けないわ!大体九九の表は重要でないし。地理にしてみよう。ロンドンはパリの首都です。パリはローマの首都です。そしてローマは・・・駄目、これは全然違う、確かに違うわ!私はマーベルになっちゃったんだわ!『どんなに小さな・・・』を暗誦してみよう。」そして彼女は暗誦の授業の時のように、膝の上に手を組んで始めたのでした。しかし彼女の声はかすれてヘンになっていて、言葉は前と同じようには出てきませんでした。 # どんなに小さなワニが輝く尻尾を改善していくことだろう、ナイル中の水を注ぐ全ての黄金の鱗に! # どんなに楽しげに鰐は笑うことだろう、 どんなに綺麗に爪を広げることだろう、 そして小さな魚を誘い込むことだろう 優しげに笑う顎でもって! #  どんなに小さな働き者のミツバチが輝く一時間を改善していくことだろう一日中蜂蜜を集める全ての咲いた花から! # どんなに巧みに蜜蜂は巣を造ることだろう!どんなに綺麗にワックスを塗ることだろう!そして勤勉に巣を埋めることだろう自分で作った甘い食べ物でもって。 # 「こんなの正しい文句じゃないわ。」とアリスは言いました。そして彼女は続けながら、また眼を涙で一杯にしました。「結局、私はマーベルだったのよ。私はあのブタ小屋のような小さな家に行って住まなくちゃならない。玩具もないわ。それに沢山の習い事があるわ!いいえ、決心したわ。もし自分がマーベルだったら、ここに居よう!誰かが上から『出てきなさい!』といっても無駄だわ。私は上を見上げてこう言うだけ。『じゃ、私は誰なの?それを先に教えてもらって、それからその人になるのが好きだったら、私は出てくるわ。そうでなかったら、誰か他の人になるまでここに居るわ。』-でも、」とアリスは突然涙を噴き出しながら叫びました。「誰かがこっちを覗いてくれるといいんだけど!ここに一人ぼっちでいるのはもう疲れたわ!」 # こういうと彼女は自分の手を見下ろしました。すると驚いたことに、彼女は話している間に兎の小さな革手袋を付けていたのです。「どうしてこんなことが出来たのかしら?」彼女は考えました。「私、また小さくなっているんだわ。」彼女は立ち上がってテーブルに行き、それを使って身長を測りました。知恵を振り絞って考えると、彼女は今大体2フィートの背丈で、そして急速に縮んでいるのです。彼女はすぐにこの原因は手に持っている扇子だと気付いて、慌ててそれを落としました。危く縮んで無くなってしまうところでした。 # 「危なかったわ!」とアリスは突然の変化に大層震えて言いました。しかし自分がまだ消えていないことがわかってとても喜びました。「さあ、庭に行きましょう!」そして小さな扉へ戻ろうと、できるだけの速さで駆け寄りました。しかし、なんという事でしょう!小さな扉はまた閉まっており、小さな黄金の鍵はまた前と同じようにテーブルの上にありました。「前より事態は悪くなったわ」と可哀想な子供は思いました。「今までこんなに小さくなったことは無かったもの!無かったんだから!これはひどいと断言できるわ!」 # こう言いざま、彼女は足を滑らしました。そして次の瞬間、ざぶん!と顎まで塩水に浸かりました。最初に彼女が思ったのは、海に落ちたんじゃないか、ということでした。「そうだとしたら、汽車で帰れるわ」と彼女は独り言を言いました。(アリスはこれまでに一度だけ海辺に行ったことがありました。そしてその経験からこんな考えを持っていました。イギリスの海岸はどこに行っても海には沢山の移動更衣車があり、子供たちは木のシャベルで砂を掘っており、海の家の列があり、その後ろは駅でした。)しかし、すぐに彼女は自分が涙の水溜りにいることが分かりました。それは彼女が9フィートの大きさの時に泣いて造ったものでした。 # 「こんなに泣くんじゃなかった!」と出口を探して泳ぎながらアリスは言いました。「今度は自分の涙で溺れてしまう罰を食らうハメになったわ!全くおかしな話よね!でも今日は全てのことがへんてこだわ。」 # 調度その時、少し離れたところで何かバシャという音が聞こえました。そして彼女はそれが何か確かめようと、近くに泳いでいきました。最初、それはセイウチか河馬だと思いましたが、自分が今は小さくなっていることを思い出すと、彼女はすぐにそれは単なるネズミだということに気がつきました。ネズミも彼女と同じように滑って水に落ちたのでしょう。 # 「このネズミに話しかけるのは、」とアリスは考えました。「意味があることかしら?ここでは全てのことが普通でないから、ネズミもきっと口がきけるでしょう。どっちにしたって、試して見ても損はないわ。」彼女は話しかけました。「ネズミよ、この水溜りから出るにはどうしたらいいかしら?ここで泳いでいるのにとってもうんざりしたの、ネズミよ!」(アリスはこれがネズミに話しかける正しいやり方だと思っていました。彼女はそんなことをしたことは無かったのですが、兄のラテン語文法の本の中に、こういうのがあるのを思い出したのです。「ネズミは、ネズミの、ネズミへ、ネズミを、ネズミよ!」ネズミは幾らか怪訝そうに彼女を見つめました。その小さな眼の一つが瞬きをしたように彼女には見えましたが、ネズミは何も言いませんでした。 # 「たぶん、英語が分からないんだわ」とアリスは思いました。「ウィリアム征服王と一緒に来た、フランスのネズミかもしれない。」(こう思ったのは、アリスには歴史の知識が余りなく、歴史上の事件がどれほど前に起きたのか、はっきりとは分からなかったからなのでした。)それで彼女はまた続けました。「ウエマシャ?(私のネコはどこかしら?)」それは彼女のフランス語の本の最初の文章でした。鼠は水から突然跳び出て、恐怖で体全体が震えているようでした。「あれ、御免なさい!」アリスはこの可哀想な動物の気分を害したかと思って、急いで大声で謝りました。「あなたが猫嫌いというのをすっかり忘れてました。」 # 「猫嫌いだって!」と鼠はキーキーと感情的な声で叫びました。「もし君が僕だったら猫が好きかい?」 # 「そうね、多分スキでないでしょう」とアリスは穏やかな調子で答えました。「そんなに怒らないで。でも私の猫のダイナを見せてあげたいわ。見さえすれば、猫を好きになると思うわ。ダイナはそれほど、ステキで穏やかなものなのよ。」とアリスは水溜りで怠惰に泳ぎながら、半分は自分に言い聞かせるように、続けました。「そして暖炉の傍に座ってゴロゴロ言うの。前足を舐めたり、顔を洗ったりしながら-ダイナは愛らしくて柔らかくて可愛がりたくなるわ-おまけにダイナは鼠捕りの大した腕前を持っているのよ-あら、御免なさい!」アリスはまた大声で謝りました。今度は鼠は怒りで全身の毛を逆立てており、彼女は自分がとても彼を怒らせたと確かに感じましたから。「あなたがお嫌なら、私たち、もうダイナのことは話さないようにしましょう」 # 「全くだ!」と鼠は尻尾の先まで震えながら叫びました。「まるで、そんなことについて僕が話すみたいじゃないか!僕の一族はずっと猫嫌いなんだぞ。汚らしい、低級で、卑しいイキモノ!二度とその名前は聞きたくないね!」 # 「私も話さないわ!」とアリスは言って、できるだけ急いで会話の話題をかえようとしました。「あなたは-あなたは好きです-か-か、犬が?」鼠は応えませんでしたので、アリスは熱心に続けました。「私の家の近くにステキで小さな狗がいるの。あなたに見せてやりたいくらい。小さな輝く眼をしたテリアよ。ええ、長くてカールした茶色い髪の!で、物を投げたら取ってくるの。それに、ちんちんをしてご飯をねだるのよ。それから色んなことができるわ-半分も覚えてないけど-それから、その犬は農家のものなの。その農家の人は言ってたわ。彼はとても役に立つって、何百ポンドもの値打ちがあるって!つまりそれは鼠を全部殺してしまうからなんだけど-あら、待って!」とアリスは済まないような声で叫びました。「彼をまた怒らせてしまったみたいだわ!」鼠は力いっぱい彼女から泳ぎ去ったので、その後には大きな波がたちました。 # それで彼女は呼びかけました。「鼠さん!お願い戻ってきて、おすきでないなら猫も犬も話しませんから!」鼠はこれを聞いて、向きを変えてゆっくりと彼女のところへ泳ぎ帰りました。鼠の顔色はひどく青白いものでした(怒っているのね、とアリスは思いました)。そして低くおびえた声で言いました。「岸に行こう、そしたら私の昔話を聞かせるよ。そうすれば、君はなぜこの僕が猫と犬が大嫌いなのか、分かるだろうよ」 # それは調度良い時間でした。というのは水溜りは、落ち込んできた鳥や動物で酷く込んできたからです。あひるとドードー、鸚鵡に鷲の子、そのほかの奇妙な生物がそこには居ました。アリスは先頭に立ち、全員がその後について岸に泳いでいきました。 # 政党集会レースと長い尾話 # 岸に上がったその動物たちは、実に奇妙ななりをしていました。濡れて汚れた羽をした鳥たち、濡れてぺったんこになった毛皮をした動物たち。みんなずぶ濡れで、不機嫌で、不愉快でした。 # 最初の疑問はもちろん、どのようにして乾かすか、でした。みんなはその事について相談しましたが、数分後には、アリスはこれまでずっと友達だったかのように、親しく彼らと話し合えるようになりました。実際、彼女は鸚鵡とひどく長い論争をしたので、最後には鸚鵡はすねて「ワシはお前さんより年長なんだから、ずっとよく知っているんだ」と言うのみでした。でもアリスは鸚鵡の年を知りませんでしたから、このことについては承知しませんでした。そして鸚鵡は全く自分の年をあかそうとはしませんでしたから、それ以上は埒があかないのでした。 # 最後に鼠が呼びかけました。(鼠はその一座の頭のようでした)。「皆さん、座って、僕の言う事を聞いてください。すぐにみなさんを十分に乾かしますよ!」一同は全員、すぐに鼠を真ん中にして大きな輪をつくって座りました。アリスは一生懸命、ねずみを見つめました。というのは彼女はすぐに乾かさないと、風邪を引いてしまうと感じたからです。 # 「えへん!」と鼠はもったいぶって言いました。「皆さん用意は宜しいですか?これは全くもって、今まで僕が耳にした中で、一番無味乾燥な話なのですよ。どうか静かにしてください!『遠征の理由を法皇に認められたウィリアム征服王は、すぐさまイギリス人を従えた。というのはイギリス人は上に立つものを欲していたからであり、近頃では強奪や侵略が横行していたからである。マーシャとノーザンブリアの領主、エドウィンとマーカーは・・・」 # 「アーッ」とぶるっと震えて鸚鵡は言いました。 # 「済みませんが!」とねずみは眉を顰めながらも、とても丁寧に言いました。「何か仰りましたか?」 # 「いや、ワシではない!」と鸚鵡は急いでいいました。 # 「あなただと思ったのですが」と鼠は言いました。「・・・続けます。『マーシャとノーザンブリアの領主たるエドウィンとマーカーは、ウィリアム王に忠誠を誓った。そして愛国の徒、カンタベリーの大僧正スタイガンドですら、それを得策と見て・・・』 # 「何を見たんだ?」と家鴨は言いました。 # 「それを見て」と、鼠は些か不機嫌に応えました。「もちろん、『それ』が何を意味しているかは、お分かりでしょう」 # 「『それ』が何を意味しているかぐらい、知っているよ。ぼくが何か見つける時、」と家鴨は言いました。「それは大抵蛙か虫なんだ。問題は、大僧正が何を見つけたかなんだ」 # 鼠はこの質問を無視して、急いで続けました。「・・・それ、つまり、エドガー・アーセリングと共にウィリアム王に面会し、王座につくよう勧めることを、得策と見た。ウィリアムの行為は最初は穏健なものであった。しかしノルマン人らの横暴は・・・」お嬢さん、具合はどうですか?」ねずみは話しながら、アリスの方を向きました。 # 「相変わらず濡れているわ」とアリスは憂鬱そうに言いました。「ちっとも乾いたような気がしないんですけど」 # 「それならば、」とドードーは立ち上がりざま、厳かに言いました。「会議を散会し、より活動的な解決法の早急なる採択を動議致します。。。」 # 「日本語をしゃべれ!」とワシの子はいいました。「そんな漢字熟語の意味なんて、半分も分からないよ。それに、君もわからないんじゃないかな!」そして鷲の子は笑いを隠すために首をかしげました。何羽かの鳥が、くすくすと忍び笑いをしました。 # 「私が言おうとしたのは」とドードーは怒ったように言いました。「我々を乾かす最良の方法は政党集会レースだ、ということだ」 # 「政党集会レースって何?」とアリスは言いました。アリスは別段知りたくはなかったのですが、ドードーがまるで誰かがきくのが当然だ、というように一呼吸おいており、そして誰もがきこうとしないようなので、そう言ったのです。 # 「うむ、」とドードーは言いました。「説明する最良の方法は、それをすることだ。」(そして、冬の日にあなた自身がこの方法を試せるように、ドードーがどういう風にしたかを教えましょう) # 最初にドードーは円のような形に、レースのトラックを描きました。(「完璧な円でなくてもいい」とドードーは言いました)。それから一同はトラックのあちらこちらに並びました。「1,2,3、スタート!」はありませんでした。一同は好きなときに走り、好きなときに止めました。だからレースがいつ終わったかどうか、定かではありませんでした。しかし半時間かそこら走り続け、みんなすっかり元通りに乾くと、ドードーは突然言いました。「レース終了!」そして一同はドードーのまわりに集まって、喘ぎながら訊きました。「で、誰が優勝したのかな?」 # この質問に対し、ドードーは長く考え込みました。一本指を額に押し当てた格好で(シェークスピアの肖像で、よく見かけるポーズです)、長い間座っていました。その間、一同は黙って待っていました。最後にドードーが言いました。「みんなが優勝したのだ。そして、全員が賞品をもらわなければならない」 # 「で誰が賞品をくれるんだい?」と多くの声が尋ねました。 # 「誰って、もちろん彼女さ」とドードーは一本指でアリスを指差して言いました。そしてすぐに一同は彼女の周りに集まって、「賞品!賞品!」と混乱した様子で叫びたてました。 # アリスはどうすればいいか分かりませんでしたが、やけくそになってポケットに手を突っこみ、糖菓の箱を引っ張り出すと(幸い、塩水は中まで染みこんでいませんでした)、みんなに賞品として配りました。調度一人一個ずつでした。 # 「しかし、彼女も賞品をもらわなければならないだろ?」と鼠は言いました。 # 「もちろん」とドードーは重々しく応えました。「ポケットの中に、他のものは入ってないかね?」とアリスの方を向いて言いました。 # 「指貫きだけだわ」とアリスは悲しげに言いました。 # 「ここに持ってきなさい」とドードーは言いました。 # そして一同はも一度彼女の周りに集まり、ドードーは「この優雅な指貫きをお納め下さい」といって、指貫を厳かに与えました。そしてこの短い献辞がおわると、みんなは歓声をあげました。 # アリスはこのこと全てをひどく馬鹿馬鹿しいと思いましたが、全員がとてもまじめに見えたので、笑い飛ばす勇気はありませんでした。そして何か言うことも思いつかなかったので、ただお辞儀をし、できるだけ厳粛そうにしながら、指貫きを受け取りました。 # 次にすべきことは、お菓子を食べることでした。物音と混乱がおきました。大きな鳥たちは味わうにはこれでは足りなすぎると文句をいい、小さなのは喉に詰まらせ、背中を叩いてもらわなければならなかったからです。けれども最後にはそれも終わり、みんなはまた丸くなって座り、鼠に何かもっと喋ってくれとせがむのでした。 # 「自分の過去を話してくれるって約束してくれたでしょ?」とアリスは言いました。「それに・・・ネとイが嫌いな理由も」彼女はまた怒らせてしまうかもしれない、と恐れながらも囁き声で付け加えました。 # 「ぼくのは長くて悲しい『おはなし』なんだよ!」と鼠はため息をつきながら、アリスの方を向いて言いました。 # 「尾は無しといっているのに、長い尾があるわね」、とアリスは鼠の尻尾を不思議そうに見下ろしながら、言いました。「それに、なんでそれが悲しいの?」。そして鼠が話している間中、彼女はそのことについて考え続けていたので、その話について彼女が理解できたのは、このようなものでした・・・ # 「鼠が犬の家に 忍び込んだが 見つかって、 主人のゲキドンは こう言った。 『一緒に行こう、 警察に突き 出してやる。 来い、知らない なんて言わせないぞ。 裁判を受け させてやる。 実際のところ、 今朝は何も することが ない からな。』 # 鼠は犬にいった。「旦那様、そのような陪審員も裁判官もない裁判は時間の無駄でないでしょうか』『オレが裁判官に、オレが陪審になってやる』と狡猾な犬は言いました。『オレが動機を全部調べ上げ、お前を死刑にしてやる』」 # 「君はマジメに聞いてないね!」と鼠はアリスに厳しく言いました。「何を考えているんだい?」 # 「御免なさい」とアリスは素直に謝りました。「5回目の話の腰に来たところでしょ?」 # 「腰じゃなくて結びだよ!」と鼠はするどく、大変怒ったようにさけびました。 # 「結び!」とアリスは言いました。アリスはいつも人の助けになるように心がけてましたから、今回も辺りを見回しながら「結びを解いているんでしょ、手伝いますわ」といいました。 # 「結びなんか、解いていない!」と鼠はいって、立ち上がって歩き去ろうとしました。「君はそんな馬鹿げたことを言って、僕を侮辱している!」 # 「そんな意味で言ったんじゃんじゃないのよ、」とアリスは言い訳しました。「でもあなたは怒りっぽいわ!そうでしょ!」 # 鼠は返事する代わりに、うなるばかりでした。 # 「戻ってお話を終えて下さいな!」とアリスは後ろから呼びかけました。そして他の動物たちも呼びかけに加わりました。「ええ、お願いします!」しかし鼠はいらいらしながら頭をふるばかりでした。そして少し足早に歩みさろうとしました。 # 「話してくれないなんて、なんて残念なんだろう!」と鼠が見えなくなるとすぐに、鸚鵡はため息をつきました。そして蟹は娘にこういいました。「蟹子や!これは度を失うな、という教訓だよ!」「静かにしてよ、ママ!」と蟹子は少し怒ったようにいいました。「ママにかかっちゃ、大人しい牡蠣だって怒らせてしまうよ!」 # 「ダイナがここにいたらなア、本当に!」とアリスは特に誰に向けるでもなく、声に出して言いました。「ダイナはすぐにそれを取って来てくれるのに!」 # 「えー、もし質問しても宜しければ、ダイナって誰でしょうか?」と鸚鵡は言いました。 # アリスは熱心に応えました。というのも彼女はいつも自分のペットについて語りたくて、うずうずしていたからです。「ダイナはウチの猫よ。信じられないでしょうけど、鼠を捕まえることにかけちゃ、すごい腕ききなのよ!それに、そう、鳥を追いかけている姿ときたら!ええ、ダイナは小鳥を見たとたんに食べてしまうのよ!」 # この発言は一同の間に大層なざわめきを引き起こしました。何羽かの鳥はすぐにでも立ち去ろうとしました。ある年取ったカササギはたいへん注意深く身支度をしながら言いました。「本当に帰らなければ。夜の空気は喉によくないからね!」カナリアは震え声で子供たちに言いました。「さあお前たち行くよ!もうねんねの時間だ!」色んな口実をつけて一同はみんな立ち去り、やがてアリスは一人とり残されてしまいました。 # 「ダイナのことをいわなけりゃ良かったのにな!」とアリスは憂鬱に独り言を言いました。「ここじゃ誰もダイナのことが好きじゃないようだわ。ダイナは世界で一番ステキな猫だというのに!ダイナ!もう二度と会えないのかも!」そしてここで可哀想なアリスはまた泣き始めました。というのは彼女はとても淋しくて、元気が出なかったのです。けれども少し経つと、また遠くでパタパタいう足音が聞こえました。彼女は鼠が気を変えて、自分の話を終えようと戻ってきたと半分期待しながら、懸命にそちらを見あげました。 # 兎がビルを送りこむ # それは白兎でした。兎は小走りにゆっくりと戻ってきました。何か探しているようで、歩きながらしきりに辺りを見回していました。そして彼女は兎がこう独り言を言うのを聞いたのです。「公爵夫人!公爵夫人!前足にかけて!毛皮と髭にかけて!私を処刑するってことは、フェレットがフェレットであるほど確実だ!一体全体、どこに落としたんだろう?」アリスはすぐに兎が探しているのは扇子と白い羊革の手袋だと気付き、彼女は親切に自分も探し始めました。しかし、どちらも見つかりませんでした。彼女が水溜りで泳いでからというもの、全てが変わったように見えました。硝子のテーブルと小さな扉のあった大広間は跡形もなく消え去っていました。 # 彼女が探していると、ほどなく兎はアリスに気付いて、怒った声で彼女に言いつけました。「おい、マリー・アン、こんな所で何をしてるんだ?すぐに家に戻って、手袋と扇子をとって来い!今すぐにだ!」アリスは余りに吃驚したので、兎の勘違いを正そうともせずに、兎が指差す方へ向かってまっしぐらに駆けていきました。 # 「彼は私をメイドだと勘違いしたんだわ」とアリスは走りながら独り言をいいました。「私が誰かわかったら、どんなに驚くかしらね!でも扇子と手袋は取って来てあげよう。。。もし見つけられたらの話だけど。」こう言ったとき、彼女は小ざっぱりした小さな家に出くわしました。その家の玄関には明るく輝く真鍮の門札がかかっており、門札には「白野 兎」と彫られていました。彼女は扇子と手袋を見つける前に、本物のメリー・アンに出会って、家を追い出されないか心配しながら、ノックもしないで中に入って階段を駆け上がりました。 # 「全くもっておかしな話だわ、」とアリスは独り言を言いました。「兎の使いをするなんて!こんな調子だと、次回はダイナの使いをしなきゃならなくなるわね!」そして彼女はそのことを想像し始めました。「『アリスお嬢様、すぐにここにいらして、散歩の準備をなさって下さい!』『ばあや、すぐに行くわ!でも鼠が鼠穴から出て行かないように見張ってなければいけないの』。でもそのようにダイナが人間に命令するようになったら、みんなはダイナを家に置かなくなるわね!」 # この時までに、彼女は窓辺にテーブルのある、こざっぱりした小さな部屋を見つけていました。そしてテーブルの上には(彼女が思った通りに)扇子と2,3組の小さな白い羊革の手袋がありました。扇子と手袋を取り上げて、部屋を出ようとした調度そのとき、彼女の眼は鏡のそばの小さな瓶に気づきました。今度は「私を呑みなさい」というラベルは貼ってありませんでしたが、それでも彼女は瓶のコルクを抜いて、口をつけました。「何か食べたり飲んだりするたびに、」と彼女は独り言を言いました。「何か興味深いことが必ず起こるって分かったわ。だから、今度はこの瓶を呑むとどうなるか、見てみましょう。また大きくなるといいんだけど。こんなにちっぽけでいるのには、すっかり飽き飽きしたもの!」 # 実際にそうなりました。そして彼女が考えていたより、ずっと早く変化は起きました。瓶を半分も飲む前に、彼女の頭は天井にぶつかり、首の骨が折れないように、屈まなければなりませんでした。彼女はいそいで瓶を下に置き、言いました。「もう十分だわ。。。もうこれ以上大きくならなきゃいいけど。。。全く、ドアから出られないわ・・・あんなに沢山飲まなければ良かったのに!」 # 残念なことに、もうそれは遅すぎたのでした!彼女の背は伸び続け、すぐに彼女は床に跪かなければならなくなりました。さらに、伸びるための隙間さえなくなり、彼女は片方の肘をドアに押し付け、もう片方の腕を首の周りに巻きつけて、横にならなければならなくなりました。それでも彼女は大きくなり続け、仕方なしに彼女は窓から一本の腕を突き出し、一本の足を煙突に突っ込み、言いました。「もう何がおきても、これ以上できることはないわ。私はどうなってしまうのかしら?」 # アリスにとって幸いなことに、魔法の小瓶の効力はそれでおしまいで、彼女はそれ以上大きくなりませんでした。それでもそれはとても不快でした。そしてその部屋から抜け出すことができないように思えたので、彼女が不幸に思ったのも無理はありませんでした。 # 「家に居た方がずっと心地よかったわ」とアリスは思いました。「家じゃ、いつも大きくなったり小さくなったりしないし、鼠や兎に命令されたりしないもの。あの兎穴を降りたりしなければ良かったわ。。。でも、。。でも。。。こんな生活も面白いかもしれないわね!一体、私に何が起きたのかしら!お伽話を読んだとき、そんなことは起こりっこないと思っていたけど、今じゃ自分がそのお伽噺の真っ只中にいるのよ!私について書かれた本があってもいいはずだわ、きっと!大きくなったら、書くことにしよう。。。でも、私、もう大きくなっているわ」と彼女は悲しそうに付け加えました。「少なくとも、ここじゃこれ以上大きくなるスペースがないわ」 # 「でもそれじゃ、」とアリスは考えました。「私はこれ以上年をとらないのかしら?ある意味じゃ、それは良いことね・・・おばあさんにならずに済むもの・・・でもそれだと・・・いつまでも勉強してなければならないじゃないの!えーっ、それは困るわ!」 # 「アリスったら馬鹿ね!」と彼女は自分で自分の疑問に答えました。「ここでどうやって勉強するというの?この部屋は私だけで精一杯なのに、これ以上教科書を開く余裕なんか全然ないわ」 # そして彼女は質問する側に立ったり、答える側に立ったりして、うまい具合に会話を続けました。しかし何分かすると、外で声がしたので、会話をやめて耳をそばだてました。 # 「メリー・アン!メリー・アン!」と声は言いました。「すぐに私の手袋を持ってくるんだ!」そして階段をパタパタと駆け上がる足音がしました。アリスは兎が彼女を探しに来たのだと知って、家が揺れるほど、ぶるぶる震えました。彼女は今や兎の何千倍も大きくなっており、兎を恐がる必要なんてないということを、すっかり忘れていたのです。 # すぐに兎はドアのところまで来て、それを開けようとしました。が、ドアを内側に開けようとしても、アリスの肘がそれにきつく押し当てられていましたから、うまく行きませんでした。アリスは兎がこう言うのを聞きました。「じゃ、回りこんで窓から入ろう」 # 「そうは問屋が卸さないわ!」とアリスは思いました。そして兎が調度窓の下まで来たのを見計らって、突然腕を伸ばし、空を掴みました。何も捕まえられなかったのですが、小さな金切り声と何かが落ちる音、それからガラスが割れるのが聞こえました。その音から彼女は兎が胡瓜の温室か何かそのようなものに落ちたんだろう、と思いました。 # 次に聞こえたのは、怒声でした。。。兎の怒声です。。。「パット!パット!どこにいるんだ?」そして始めて聞く声がしました。「はい、こちらにおります!林檎を掘っておりますです、旦那様!」 # 「なんだって、林檎を掘っているだと!」と兎の怒声。「ここだ!助けてくれ!」(さらに何枚か、硝子の割れる音) # 「さあパット、あの窓にいるのは何か、教えてくれ」 # 「もちろん腕でありますです、旦那様!」(彼は「うんで」と発音した) # 「腕だと、この馬鹿!あんなでかい腕があるか?窓一杯の大きさだぞ!」 # 「それがあるのであります、旦那様。なんと言われようと、腕であります」 # 「そうか、いずれにしろ、腕に用は無い。すぐに片付けろ!」 # この会話が終わると、しばらく静かになり、時々「イヤであります、旦那様。イヤといったらイヤなんであります!」「言われた通りにやれ、臆病者が!」というような囁き声が聞こえるばかりでした。そして最後に彼女は腕をまた伸ばし、空を掴みました。今度は二つの小さな金切り声と、もっと沢山の硝子が割れる音がしました。「なんて沢山の胡瓜の温室があるんでしょ!」とアリスは思いました。「あの人たち、次に何をするのかしら!窓から私を引きずり出そうって言うんなら、そうしてもらいたいわ!ここにはもうこれ以上いたくないもの!」 # 何も物音がしない時間がしばらく続きました。そして最後に小さな荷車がゴトゴトいう音と、とても多くの声が同時喋るのが聞こえました。彼女はこんな声を聞きました。「もう一本の梯子はどこだ?・・・いや、おれは一本だけだ。ビルが持ってるぞ・・・ビル!持って来い!・・・ここだ、この角に立てろ・・・違う、最初に繋げるんだ・・・まだ半分の高さにも届かないぞ・・・おっ、うまく行ったぞ。細かいことは気にするな・・・そら、ビル!このロープを掴むんだ・・・屋根はもつかな?・・・気をつけろ、その瓦はぐらぐらするぞ・・・お、落ちていくぞ!頭に気をつけろ!」(大きな衝突音)・・・「おい、誰が落としたんだ?・・・ビルだろう・・・誰が煙突を降りる?・・・いんや、オレはいやだ!お前がやれよ!・・・オレだってイヤだよ・・・ビルにやらせよう・・・こい、ビル!ご主人様がお前に煙突を降りろ、と仰っているぞ!」 # 「あら、じゃビルが煙突を降りることになったのね」とアリスは言いました。「みんな嫌な事は何でもビルに押し付けちゃうのね!私、ビルと一緒に居るのはイヤだわ。この暖炉は確かに狭いけど、少しは蹴り上げることができると思うわね!」 # 彼女はできるだけ長く煙突の中に足を突っ込んで待ちました。すると小さな動物が(彼女はそれがどんな動物かは分かりませんでした)煙突の中でごそごそいうのを聞きました。それが彼女の真上にまで来た時、彼女は独り言をいいました。「これがビルね」。そして鋭い蹴りを一つくれてやり、次に何が起こるか待ちました。 # 最初に彼女が聞いたのは「ビルが飛んでいくぞ!」という人々の声でした。そして兎の声が続きました。。。「受け止めろ、垣根の傍にいる奴!」そして静かになって、また混乱した声がおきました。。。「頭を上にしろ・・・ブランデーを飲ませろ・・・喉に詰まらせるな・・・どうだ、気分は?何があったんだ?話してくれ!」 # 最後に小さく弱弱しいキーキー声がしました。(「ビルだわ」とアリスは思いました)「えーと、ほとんど分からないんだよ・・・もういいよ、ありがと。もう良くなった。。。でもあんまり驚いたもんだから、うまく言えない・・・ぼくが知っているのは、吃驚箱のように、何かがぼくに向かってきたことだけさ。で、ぼくはといえば、ロケットのようにぶっ飛んでしまったんだ!」 # 「うん、飛んだよ!」とみんなは言いました。 # 「家を焼き払わなきゃならんな!」と兎の声が言いました。そこでアリスはできるだけ大声を出して「もしそんなことしたら、ダイナをけしかけるわよ!」 # すぐに死んだような沈黙が訪れました。アリスは考えました。「次は何をするのかしら!もし知恵があるんなら、屋根をとるでしょうけど。」1,2分後、人々はまた動き始めました。アリスは兎がこういうのを聞きました。「手押し車一杯でいいだろう、最初は。」 # 「手押し車一杯の何かしら?」とアリスは思いました。しかし彼女は長く考える必要はありませんでした。というのも次の瞬間には、窓から小石の雨がうなり声を上げて飛んできたからです。幾つかの小石は、彼女の顔に当たりました。「やめさせないと」と彼女は独り言を言って、大声をあげました。「こんなこと、二度としない方がいいわよ!」すると辺りはまた死んだように静かになりました。 # アリスは小石が床に落ちると、みんな小さなケーキになっていることに気付いて驚きました。そしてアイデアがひらめきました。「もしケーキを食べたら」と彼女は考えました。「身長が変わるはずだわ。これ以上大きくなることは有り得そうもないから、小さくなるはずだわ、きっと」 # それで彼女はケーキを一つ、飲み込みました。嬉しいことに、彼女はすぐに縮み始めました。ドアを通り抜けられるほど小さくなると、すぐに彼女は家を抜け出し、大変多くの小さな動物や鳥が外側で待っているのを見つけました。哀れな小トカゲのビルは、二匹のモルモットに支えられて真ん中に居ました。モルモットは瓶からビルに何かを与えていました。彼らはアリスが現れるとすぐに、彼女めがけて走り出しました。しかし彼女は力の限り走りぬけ、安全な木の茂みの中に逃げ込みました。 # 「最初にしなければならないことは、」とアリスは森をぶらぶら歩きながら言いました。「元通りの大きさに戻ることよ。そして次にすべきことはあのステキな庭に戻る道を見つけることよ。これが一番いい計画だわ」 # それは疑いもなく上等で、とても簡潔な計画のように見えました。たった一つの困難は、どのようにそれを始めればいいか、全く検討もつかないということでした。そして彼女が森のあちこちを懸命に見回しているうちに、頭の真上で小さな鋭い吠え声がしました。彼女は急いで見上げました。 # 巨大な子犬が大きな目で彼女を見下ろしていました。そしてそっと前足を伸ばし、彼女に触ろうとしました。「おお、よしよし!」とアリスはなだめるように言って、頑張って口笛を吹こうとしました。しかし彼女は犬がお腹をすかせているんじゃないかと思って、ずっと酷くおびえていました。もしそうなら、どんなになだめた所で、彼女は食べられてしまうだろうからです。 # ほとんど無意識的に、彼女は小さな棒切れを拾って、子犬に伸ばしました。すぐに子犬は喜びをあらわにして、空中に跳びあがりました。そして棒切れに跳びかかって噛み付きました。アリスは大きな薊の後ろに隠れて、難を逃れました。そして彼女が反対側から出てきたとき、子犬はまた棒切れに向かって突進し、それを掴もうとして転びました。アリスは、これはまるでいつ踏み潰されるかびくびくしながら荷車と遊んでいるようなものだ、と思いながら、薊の周りを走り回りました。すると子犬は棒切れに向かって続けて突撃し、ほんの少し走ってはずっと戻ってくるのを繰り返しました。その間中ずっと吠え続け、最後にはしたを口から出してハアハア言いながら、遠くの方で座り込んでしまいました。大きな目は半分閉じていました。 # これはアリスにとっては逃げだすチャンスでした。そこで彼女はすぐに脱走を開始し、息が切れて、くたくたになるまで走りました。子犬の吠え声は遠くの方でかすかに聞こえるだけでした。 # 「でも、なんて可愛い子犬だったのかしら!」とアリスは言いながら、金鳳花によりかかって身体を休め、その葉で自分を扇ぎました。「本当、あの犬に芸を教えてやりたかったけど、もし・・・もし、私がそれができるだけの大きさがあったならね!やれやれ!もう一度大きくならなきゃならないってこと、忘れかけてたわ!えーと・・・どうすればいいのかしら?何か食べたり飲んだりすればいいんだとは思うけど、問題は何を?ってことね」 # 問題は確かに「何を?」でした。アリスは花々や草の葉などの辺りを見回しましたが、その状況で食べたり飲んだりするのに相応しいような物を見つけることができませんでした。彼女の傍には、彼女と同じぐらいの背丈の大きな茸が生えていました。彼女はその下を見、両側を見、後ろを見ると、その上に何があるかも見てやろう、という考えが湧きました。 # 彼女はつま先で伸び上がり、茸の恥を覗いてみました。彼女の視線はすぐに大きな芋虫にぶつかりました。芋虫は上に座って腕を組んで黙って長い水煙管を吸っており、アリスやそのほかの事柄には全然興味がないようでした。 # 芋虫の忠告 # 芋虫とアリスは暫くの間、黙ってお互い見詰め合っていました。とうとう芋虫は口から水煙管を離し、のろのろと眠い声で彼女に語りかけました。 # 「お前はなにものだ?」と芋虫はいいました。 # これは会話の始まりとしては、余りワクワクするようなものではありませんでした。アリスは少し臆病になって、「私・・・芋虫さん、私は今現在、自分が何ものか、ほとんど分からないんです。。。今朝起きた時には自分が「何ものか」分かっていたんですが、それから何回か変わっちゃったんで。」 # 「それは何を意味しているのかな?」と芋虫はピシッといいました。「自分自身がなにものか、説明しなさい!」 # 「自分自身を説明できないんです、ごめんなさい、芋虫さん」とアリスは言いました。「なぜって、私は自分自身じゃないんですもの、ね?」 # 「意味不明だ」と芋虫はいいました。 # 「これ以上はっきりさせることはできそうもないんです」とアリスは礼儀正しく答えました。「というのはまず、私は自分自身を説明できないからです。それに、一日でこんなにいくつもの違った大きさになるなんて、とっても頭がごちゃごちゃするんです」 # 「そうでもないだろう」と芋虫は言いました。 # 「うーん、たぶん、貴方はまだそのような経験がおありじゃないんでしょう。」とアリスは言いました。「でも蛹になれば・・・あなたもお分かりになると思いますわ!いつか、きっと・・・それから蝶になった時には、ちょっと変な気持ちになるんじゃなくて?」 # 「ちっとも。」と芋虫は言いました。 # 「そうね、あなたの感じは違うかもしれないわ。」とアリスは言いました。「だけど、私はとってもヘンに感じたのよ」 # 「私、私というが一体」と芋虫は軽蔑したように言いました。「お前は何者だ?」 # そこで会話は振り出しに戻りました。アリスは芋虫のあまりに短いセリフに少しムカムカしてましたが、なんとか我慢して、重々しく言いました。「まずあなたが自己紹介するべきじゃなくて?」 # 「どうして?」と芋虫は言いました。 # これはもう一つの難問で、アリスはいい理由を思いつくことが出来ませんでした。そして芋虫はひどく不愉快そうに見えたので、彼女は背中を向けました。 # 「戻って来い!」芋虫は彼女を呼びました。「大事なことを言うぞ!」 # 確かに、芋虫は何か告げてくれるようでした。アリスは振り向いて、戻ってきました。 # 「癇癪を抑えろ」と芋虫は言いました。 # 「それだけ?」とアリスはできるだけ怒りを飲み込みながら言いました。 # 「いや」と芋虫は言いました。 # アリスは他にすることがなかったので、待ってみようと思いました。最後には何か聞くに値することを言ってくれるかもしれない、と。暫くの間、芋虫は何も言わずにプカプカやってましたが、やっと腕を伸ばし、また水煙管を口から離して言いました。「それで、お前は自分が変わったと思っているのかね?」 # 「そうなんです、芋虫さん」とアリスは言いました。「前のように、はっきりと物事を覚えていられないんです。それに、十分と続けて同じ大きさで居られないんです!」 # 「何を覚えてられないのかね?」と芋虫。 # 「えーと、『どんなに小さな働き蜂が』を暗誦しようとしたんですけど、全然違う詩になっちゃっうんです!」とアリスは悲しそうに言いました。 # 「『年だね、ウィリアム父さん』を暗誦しなさい」と芋虫。 # アリスは両手の指を組んで、始めました。。。 # 「年だね、ウィリアム父さん」と若者は言った。「父さんの髪は真っ白だ。それなのに、ずっと頭で立ち続けている・・・そんな年なのに大丈夫かい?」 # 「若い頃は」とウィリアム父さんは若者に言った。「そうすると脳を痛めるんじゃないかと思ってた。だが、今じゃそんなことは全然ないことが分かった。さあやるぞ、何回でもやるぞ」 # 「年だね、」と若者は言った。「前にも言ったように、こんなに異常に太っちゃって。それでもドアのところで宙返りする・・・頼むよ、その理由を教えてくれ?」 # 「若い時に、」と白髪の賢者は言った、「手足をしなやかにしていたものだこの軟膏を使ってな・・・1箱1シリングだ・・・少し買わんか?」 # 「年だね、」と若者は言った、「父さんの顎は弱くなって脂身以外は噛めないな、でも父さんは鵞鳥を骨ごと丸齧りした。。。頼むよ、その秘訣を教えてくれ?」 # 「若い頃は、」と父さんは言った、「法律に没頭したもんだ、そして母さんと色々論争したもんだ、だから顎の筋肉が強くなって、死ぬまではもつさ」 # 「年だね、」と若者は言った、「眼もほとんど前のようにはしっかり見えないだろ、でも父さんは鼻の上に鰻を乗せてバランスをとってる・・・どうしてそんなに凄いんだい?」 # 「もう三つも質問に答えてやったぞ、」と父さんは言った、「いい気になるんじゃない!そんな下らない話に一日中付き合っていられるとでも思っているのか?出て行け、さもないと階段から蹴り落とすぞ!」 # 老人の快楽と、どのようにしてそれを得るか # 「年だね、ウィリアム父さん」と若者は言った、残った少しばかりの髪は白い。「元気だね、ウィリアム父さん。健康な老人だ、頼むよ、その健康の秘訣を教えてくれ」 # 「若い時に」とウィリアム父さんは答えた、「青春はすぐ去ってしまうと知ってた。だから最初に健康と活力を浪費しなかった。最後に必要になるかもしれないからな」 # 「年だね、ウィリアム父さん」と若者は言った、「青春の楽しみが過ぎ去ったのに父さんは過ぎ去った時間を嘆こうとしない。頼むよ、その理由を教えてくれ」 # 「若い頃に」とウィリアム父さんは答えた。「青春は長くは続かないと知ってた。だから将来を考えて、何でもやった。後で決して後悔しないようにな」 # 「年だね、ウィリアム父さん」と若者は言った。人生は急いで過ぎていくのに、父さんは楽しそうで、死と談笑するのが好きだ。頼むよ、その理由を教えてくれ」 # 「オレは楽しいんだ、息子よ」とウィリアム父さんは答えた。「気持ちを大いなる目標に向けているのでな。若い頃に神を知った!そして主はオレの年をお忘れになっていない」 # 「正しく言えてないな」と芋虫は言いました。 # 「完璧じゃ無かったです」とアリスはおどおどと言いました。「幾つかの文句は違ってると思います」 # 「初めから終わりまで間違っている」と芋虫はピシャリと決め付けました。そして何分か、沈黙が続きました。 # 芋虫が最初に口を開きました。 # 「どんな大きさになりたい?」と尋ねました。 # 「あら、大きさに関しては適当でいいんです」とアリスは急いで答えました。「ただ、誰でもそんなに頻繁に変わるのは好きじゃないでしょ?」 # 「知らん」と芋虫は言いました。 # アリスは今までこんなに突っかかって来られたことはありませんでしたので、段々腹が立ってきました。 # 「今は満足しているのか?」と芋虫。 # 「えーと、できたら、もうちょっと大きくなりたいかな?なんて」とアリスは言いました。「3インチなんて、惨めな高さでしょ」 # 「いや、大変良い高さだ!」と芋虫は後足で直立して、怒ったように言いました。(芋虫はきっかり3インチでした) # 「でも、私はその高さに慣れてないんです!」とアリスは哀れっぽい声で泣きつきました。そして思いました。「このイキモノが、こんなに怒りっぽくなきゃいいのに!」 # 「じきに慣れるさ」と芋虫は言って、水煙管を口にくわえ、また吸い始めました。 # 今度はアリスは虫がまた喋りたくなるまで辛抱強く待ちました。1,2分すると、芋虫は口から煙管を離し、1,2回欠伸をし、ぶるっと身震いしました。そして茸から下りて、「片側は大きくなる。もう片側は小さくなる」といいながら、草の中に這い去っていきました。 # 「片側の何?もう片側の何?」とアリスは考えました。 # 「茸だよ」と芋虫は彼女の声が聞こえたかのように言いました。そして次の瞬間には見えなくなってしまいました。 # アリスは茸を少しの間、茸をじっと見つめながら、どっちがどっち側なのだろうか、と考えていました。それは完全な円形でしたので、彼女はこれは難問だと思いました。しかし、最後に彼女は茸の傘にそって腕を出来るだけ伸ばして、それぞれの手で茸の縁を千切り取りました。 # 「さて、どっちがどっちかな?」と彼女は独り言を言って、右手の茸片を試しに少しだけ齧りました。次の瞬間、顎のしたが強烈に殴られた感じがしました。顎が足にぶつかってしまったのでした! # 彼女はこの変化に頭がくらくらしていたのですが、急速に背が縮んでいくので、ぐずぐずしている時間はないと思いました。そこでもう片方をすぐに食べにかかりました。彼女の顎は足にぴったりくっついていて、口を開く隙間がなかったのですが、やっとこじ開け、なんとか左手の茸片を飲み込むことができました。 # 「やった!やっと頭が自由になったわ」とアリスは喜んだ声で言いましたが、次の瞬間にはその声は悲鳴になりました。肩がどこにも見当たらなかったからです。下のほうに見えるのは、馬鹿げて長い首だけでした。首はずっと下の方にある緑の葉の海からにょきっと伸び上がっている茎ように見えました。 # 「あの緑のものは何かしら?」とアリスは言って「それに、私の肩は何処に行ったのかしら?私の手も見えないけど、大丈夫かしら?」。彼女は喋りながら手を動かしてみましたが、遠くの緑の葉っぱが少し揺れた以外は、何の反応もないように見えました。 # 手を頭に持っていけそうにも無かったので、彼女は頭を手に持っていこうとしました。そして 自分の首がヘビのようにどの方向へも簡単に曲げることができる気付いて喜びました。彼女は優美なジグザグの形に首を曲げて、葉っぱの間を潜っていき、先ほど彼女がうろついていた木々の天辺に行き着きました。そこで鋭いシュッという音がしたので、彼女は急いで首を戻しました。大きなはとが彼女お顔に飛び込んできて、羽で激しく彼女をぶちました。 # 「ヘビだ!」と鳩は叫びました。 # 「私はヘビじゃないわ!」とアリスは憤慨していいました。「あっち行ってよ!」 # 「ヘビと言ったらヘビよ!」と鳩は繰り返しましたが、前よりは落ち着いた様子でした。そしてすすり泣くように付け加えました。「色んな方法を試したけど、こいつらを諦めさせることはできないみたい」 # 「私、あなたが何を言っているのかちっとも分からないわ」とアリスは言いました。 # 「木の根を試してみた。土手も試してみた。垣根だって試したわ。」と鳩は彼女に目もくれずに続けました。「でも、こいつらヘビときたら!満足するということを知らないんだから!」 # アリスはより一層混乱しました。しかし彼女は鳩が言い終わるまで、何を言っても無駄だと思いました。 # 「卵を孵すだけじゃ、苦労が足りないとでも言うのかい!」と鳩は言いました。「昼も夜もヘビを見張ってなきゃならないんだよ!この3週間というもの、一睡もしてないんだ!」 # 「ご苦労なさっているのですね、同情しますわ」とアリスは言いました。彼女は段々鳩が言いたいことがわかってきました。 # 「木木の中で一番高いのを選んだ矢先に、」と鳩は声を悲鳴にして続けました。「やっとあいつらから自由になれたと思った矢先に!空からにょろにょろ降りてきた!このくそヘビめ!」 # 「でも私はヘビじゃないわ、ほんとよ!」とアリスは言いました。「私は・・・私は・・・」 # 「さあ!あなたは何?」と鳩は言いました。「何か考え出そうとしているね!」 # 「私・・・私は小さな女の子よ」とアリスは多少自信なさげに言いました。というのもその日に起きた事柄が頭に浮かんだからです。 # 「実にもっともそうな話だこと!」と鳩はふんと嘲るように言いました。「これまで沢山女の子を見てきたけど、そんな首をしたのを見たことはないわね!嘘ばっかり!あなたはヘビだわ。違うといっても無駄よ。次は卵なんか食べたことなんか無いって言い出すんでしょ!」 # 「確かに卵を食べたことはあるわ」と正直者のアリスは言いました。「でも女の子はヘビと同じくらい、卵を沢山食べるものなのよ」 # 「信じないね。」と鳩は言いました。「たとえそうだとしても、それは女の子がヘビの一種だということでしかないわ。そうに決まってる」 # これはアリスには新しい発想でしたので、彼女はちょっと言葉につまりました。それを捉えて、鳩は付け加えました。「卵を探してるんだろ、お見通しさ。あたしにとっては、女の子だろうがヘビだろうが、大した違いはないね」 # 「私にとっては大した違いだわ。」とアリスは急いで言いました。「大体、私は卵なんか探してないわ。もしそうだとしても、あなたのなんかほしくないわ。生卵なんかほしくないもの」 # 「そうかい、じゃあっち行け!」と鳩はむっつりした声で言って、巣に戻りました。アリスは木々の間をできるだけ屈んで行きました。というのも首が枝に絡まってしょうがないからです。時には、立ち止まって首をほどく必要がありました。少したつと、彼女は手にまだ茸が残っていることを思い出しました。そして大変慎重に食べにかかりました。最初に片方を、そしてもう片方を齧りました。時には高くなり、時には低くなり、遂にいつもの高さに戻ることができました。 # 元の大きさになるまで、実に長い時間たっていましたから、最初は酷く奇妙な感じがしました。しかし数分間たつと慣れて、いつものように独り言を言い始めました。「やったわ、計画の半分が達成できたわ!大きくなったり小さくなったり、なんて目まぐるしいんだろう!次の瞬間に何が起こるか、見当もつかないわ。でも、正しい大きさに戻った。次にすることは、あの綺麗な庭に行くこと・・・どうやってこの計画を実行すればいいのかしら?」こう言った途端、彼女は突然開けた場所に出ました。そこには大体4フィートくらいの高さの小さな家がありました。「そこに誰が住んでいるか、分からないけど」とアリスは思いました。「この大きさで会う訳には行かないわ。私を見たら、腰がぬけちゃうから。」そこで彼女は右手の茸をまた齧り始めました。そして9インチの高さになると、家の近くに行ってみました。 # ブタと胡椒 # 1、2分の間、彼女は次にどうしようか、考えながら立って家を見ていました。すると突然、制服を着た召使が林の方から走り出てきました。。。(制服を着ているので、彼女はその人を召使と思いました。でなければ顔からみて、魚だと思ったことでしょう)。。。召使は拳で音を立てて扉を叩きました。扉は開いて、制服を着て、丸い顔と、蛙のような大きな眼をした別の召使が出てきました。両方の召使は白粉がついて、一面カールした髪をしていることにアリスは気が付きました。彼女は何事だろうと思って、林の中から少し這い出して、耳をそばだてました。 # 魚の召使は脇の下から、彼の背丈ほどもある大層大きな手紙を取り出すことから始めました。そして厳かな調子でこういいながら、それを別の召使に手渡しました。「公爵夫人へ、女王様からのクロケット試合のお誘いであります」蛙の召使は同じ厳かな調子で、少しだけ単語の順序を変えて、繰り返しました。「女王様から、公爵夫人へのクロケット試合のお誘いでありますな」 # それから二人して低くお辞儀すると、二人の髪の毛は絡まりました。 # アリスはこれに大笑いしたので、聞かれたんじゃないかと思って林に逃げ帰りました。やがて覗いて見ると、魚の召使は去ってしまって、もう一人は馬鹿のように空を見つめながら、扉のそばの地面に座っていました。 # アリスはびくびくしながら扉に近づいて、ノックしました。 # 「ノックしても無駄だよ」と召使。「理由は二つある。一つには、僕は君と同じ、扉のこちら側にいるから。もう一つは、家の中の人たちは大騒ぎをしているので、誰もノックに気付かないからさ。」確かに、中では物凄い騒音がしていました。ひっきりなしに泣き喚いたり、クシャミしたりしている音です。そして時々、皿かヤカンが割れるような大きな音がしました。 # 「それじゃ」とアリスは言いました。「どうすれば中に入れるかしら?」 # 「ノックするのも幾らか意味があるでしょう」と召使は彼女を気にせずに続けました。「もし僕たちの間に扉があったら、例えば君が内側にいたら、君はノックし、僕は君を外に出してやることができるだろうね。」彼は話している間中、ずっと空を見上げていましたので、アリスは無礼だと思いました。「でも仕方ないのかもしれないわ」と独り言。「この人の眼玉は頭のほとんど天辺にあるんですもの。ただいずれにしたって、質問に答えてくれてもいいのに。。。どうやって中に入るのですか?」と彼女は大きな声で繰り返しました。 # 「僕はここに座っているよ」と召使は言いました。「明日まで・・・」 # この時家の扉が開き、大きな皿が召使の頭真っ直ぐにめがけて飛び出してきました。皿は彼の鼻を掠めて、彼の後ろの木にぶつかって粉々に割れました。 # 「或いは明後日までかもしれない」と召使はまるで何も無かったかのように、同じ調子で続けました。 # 「どうすれば入れるの?」とアリスはも一度、一層大きな声でききました。 # 「入りたいんだね?」と召使は言いました。「そこから始めようか」 # 入りたいというのは疑いも無いことです。アリスはその応答が気に入りませんでした。「本当に酷いわ。」と彼女はぶつぶつ言いました。「ここのイキモノたちの口のききようといったら。このままじゃ、こっちがおかしくなっちゃう!」 # 召使はアリスが黙っているのを好機と思ったようで、自分の物言いを少し変えて繰り返しました。「ここに座っているよ」と彼は言いました。「ずっとずっと。何日も何日も」 # 「でも私は何をすればいいの?」とアリスは言いました。 # 「何でもするといいよ」と召使はいい、口笛を始めました。 # 「この人と話しても無駄だわ」とアリスはやけっぱちになって言いました。「この人は完全に白痴だわ!」そして扉を開けて中に入りました。 # 扉を開けると大きな台所があり、端から端まで煙が充満していました。公爵夫人は真ん中で赤ん坊をあやしながら、三本足の腰掛に座っていました。料理人はコンロにかがみこんで、スープが一杯入っているらしい大鍋をかき回していました。 # 「絶対、あのスープには胡椒が入りすぎてるわ!とアリスはクシャミをしそうになりながら、独り言を言いました。 # 確かに、空中にも胡椒が一杯でした。公爵夫人でさえ、時々くしゃみしました。赤ん坊と言えば、一時も休まずにクシャミと泣きを交互にしていました。台所でクシャミをしていないのは、料理人と、暖炉の傍に座って耳まで口を開けてにやけている猫だけでした。 # 「教えてくださいませんか、」とアリスは少しびくついて言いました。というのは彼女は自分が先に喋るのが礼儀にかなっているかどうか、余り確かでなかったからです。「どうしてあなたの猫はあのように笑っているんですの?」 # 「それはチェシャ猫だからです」と夫人は言いました。「それが理由です。ブタ!」 # 彼女は最後の言葉を急に荒々しく言ったので、アリスは飛び上がりました。しかし次の瞬間、それが彼女にでなく、赤ん坊に向けられたものだと知って、勇気を出してまた続けました。 # 「チェシャ猫がいつもにやにやしているとは知りませんでした。実際、猫が笑えるとは知りませんでした」 # 「猫はみんな笑えます。」と夫人。「そしてほとんどの猫は笑うのです」 # 「そのようなことをする猫を、一匹も知らないのですが」と会話ができたことにとても喜んで、アリスは丁寧に言いました。 # 「余り物事を知らないね」、と夫人は言いました。「全くこの小娘ときたら」 # アリスは彼女の言い方が全然好きじゃなかったのですが、何か別の話題を振ってみようと思いました。彼女が何か話題を考えている間、料理人はコンロからスープの入った大釜を下ろし、すぐに手の届く限りのものをみな、夫人と赤ん坊に投げつけることにとりかかりました。。。手始めにアイロン、それからシチュー鍋、小皿、大皿の雨が続きました。夫人はそれらが当たっても、気にしませんでした。そして赤ん坊は既に大声で泣いていましたので、ものが当たって泣いたのかそうでないのか、見分けることがほとんどできないのでした。 # 「すみません、気をつけてください!」とアリスは恐ろしさで跳んだり跳ねたりしながら叫びました。「あっ、鼻がもげるわ」普通でない大きさのシチュー鍋が赤ん坊の鼻の傍を飛んで、もぎ取っていきそうになったのです。 # 「もし誰もが他人のすることに口出ししなければ」と夫人はしわがれたガミガミ声で言いました。「世界はもっとずっと速く回るだろうよ」 # 「それは何の得にもならないわ」とアリスは自分の知識をひけらかすチャンスと見て、嬉しく思いました。「もし速く回ったら、昼と夜がどうなるか考えてみなさいな。地球は24時間で一周するわ、地軸を中心にして・・・」 # 「恥辱といいよったな、」と夫人は言いました。「この女の首を刎ねよ!」 # アリスは料理人がその言葉通りにしないかと、心配そうに彼女をちらっと見ましたが、料理人はスープをかき回すのに忙しく、聞いていないようでした。そこで彼女はまた続けました。「24時間、ですよね。それとも12時間だったかしら?私・・・」 # 「うるさい女だな」と夫人は言いました。「数字は苦手だ!」そして子守唄のようなものを歌って、また子供をあやし始めました。そして一行歌い終えるごとに、激しく子供を揺さぶるのでした。 # 「荒々しく男の子に語りかけろ、くしゃみをしたら叩いてやれ。赤ん坊は意地悪したくて泣いているだけだ、奴はクシャミが不愉快にさせると知っているんだ」合唱(料理人と赤ん坊が加わって)・・・「ワーワーワー!」 # 二番目の歌詞を歌っている間、彼女はバレーボールのように赤ん坊を激しく投げたり落としたりしたので、可哀想に赤ん坊はひどく泣いてアリスは言葉がほとんど聞き取れませんでした。 # 「私は厳しくわが子に語り掛ける、くしゃみをしたら叩いてやる。奴は心底それで楽しめる、好きなときに胡椒を楽しめる!」合唱「ワーワーワー!」 # 「そら!ほしけりゃ、少しあやしてもいいよ!」と夫人はアリスに言って、赤ん坊を彼女に投げつけました。「行って女王とのクロケット試合の仕度をしなけりゃならない」そして彼女は急いで部屋から出て行きました。料理人は彼女が出て行く時にフライパンを投げつけましたが、それは危うく外れました。 # 赤ん坊は奇妙な形をした生き物で、手足を四方八方に伸ばしていたので、アリスは赤ん坊を受け止めるのに少し苦労しました。「ヒトデのようだわ」とアリスは思いました。受け止めると赤ん坊は蒸気機関のような鼻息を立てて、身体を二つ折りにしたり、また伸ばしたりし続けていたので、最初のうちは、抱いているのが精一杯でした。 # 赤ん坊をあやす正しい方法を理解すると(それは結び目のようにねじり、右耳と左足をきつく持ってほどけないようにするのでした)、彼女は赤ん坊を抱いて外に出ました。「もし連れ出さなかったら、」とアリスは思いました。「あの人たちはいずれ赤ん坊を殺してしまうに違いないわ。あそこに置いたままにするのは殺人でなくて?」彼女は最後の言葉を声に出して言いました。すると赤ん坊は返事にブーブー言いました。(この時はくしゃみはやんでました)。「ブーブーいわないの」とアリスは言いました。「それは自分の意見を言うのにふさわしい言い方じゃないわ」 # 赤ん坊はまたブーブー言いました。アリスは何事かと、じっと赤ん坊の顔を覗き込みました。赤ん坊の鼻は穴が上を向いていました。本当の鼻というより、ブタによく似てました。それに、眼も赤ん坊にしてはとても小さくなっていくのです。このことから、アリスはこのイキモノが全く好きになれませんでした。「でもたぶん、単に泣いているだけなんだろう」と彼女は思って、泣いているかどうか確かめに、また眼を覗き込みました。 # いえ、泣いていませんでした。「君、もしもブタになるというんなら」とアリスは真剣に言いました。「もうこれ以上付き合ってられないわよ。気をつけなさい!」赤ん坊はまたすすり泣き始めました。(或いはブーブーいったか、どっちだったのかは見分けられませんでした)。そして二人は暫くの間、黙っていました。 # アリスは考え始めました。「さて、家に戻ったら、このイキモノをどうしようかしら。」との時赤ん坊はまた激しくブーブー喚いたので、彼女は少し緊張して顔を覗き込みました。今度は間違えようがありませんでした。それはブタそのものでした。そして彼女はこれ以上抱き続けるのは馬鹿げている、と思いました。 # そこで彼女はその小さな生き物を下ろし、林の中へ黙って走り去っていくのを見て、とても安心しました。「もし大きくなったら」彼女は独り言を言いました。「恐ろしく醜い子供になるでしょう。でもブタの子なら、ハンサムなブタになるわね。」そして彼女は知っている子供たちの中で、ブタとしてうまく通用するは誰か、想像し始めました。彼女が調度「あの子たちを変身させる正しい方法を知っていれば・・・」と独り言を言ったとき、2,3ヤード向こうの木の枝にチェシャ猫が座っているのを見て、少し吃驚しました。 # 猫はアリスを見てにゃりと笑いました。気立てがよさそうだわ、と彼女は思いました。とはいえ猫は長い爪と沢山の歯を持ってましたから、礼儀正しく振舞うべきだ、と感じました。 # 「チェシャ猫さん」と彼女はおずおずと喋り始めました。というのは彼女は猫がその名前をすきかどうか、全然分からなかったからです。しかし、猫は少し大きくにやり、としただけでした。「いいわ、今までのところは機嫌を損ねてないわ」とアリスは思ったので、続けました。「教えてくださいな、ここからどっちへの道へいけばいいんでしょうか?」 # 「それは君がどこに行きたいかによるね」と猫は言いました。 # 「どこでも構わないわ」とアリス。 # 「じゃ、どっちの道を行ってもいいだろう」と猫。 # 「・・・どこかに行き着きさえすれば、ですけど」、とアリスは説明を加えました。 # 「おやおや、行き着くに決まってるじゃないか」と猫は言いました。「ずっと歩いていけばね」 # アリスはこのことを否定できないように感じたので、別の質問にしてみました。「そこにはどんな人がすんでるの?」 # 「あっちの方には」と猫は右の前足を丸く振りながら言いました。「帽子屋が住んでいる。そしてそっちの方には」ともう一方の前足を振りながら「三月兎がすんでいる。どっちでも好きなほうを訪ねるといい。両方ともキチガイだけど」 # 「でも気が狂った人たちのところに行くのはイヤです」とアリスは言いました。 # 「うん、でも仕方がないよ」と猫。「ここじゃ、みんな狂っているんだからね。君だってキチガイだ」 # 「どうして私がきちがいだってわかるの?」 # 「そうに決まってるさ。」と猫。「でなければここに来なかったろう」 # アリスはその証明が全然正しいとは思えませんでしたが、続けて「じゃどうしてあなたは自分がキチガイって分かるの」 # 「まず」と猫。「犬は狂っていない。それは認めるね?」 # 「そうだと思うわ。」 # 「うん、じゃ」と猫は続けました。「犬は怒ったときにうなって、嬉しいときには尻尾を振るだろう。だけど僕は嬉しいときにはうなって、怒ったときには尻尾を振る。それゆえ、ぼくはきちがいなんだ」 # 「それって、うなるじゃなくゴロゴロ言う、って言うのよ」 # 「君の好きなように言えばいい。」と猫。「今-日、女王とクロケットの試合をするのかい?」 # 「とってもしたいわ。」とアリス。「でも私はまだ招待されてないの」 # 「そこで会おう。」と猫は言って、消えました。 # アリスはこれに別段驚きませんでした。おかしなことが起こるのにはもう慣れていたからです。猫が消えた場所を見つめていると、猫はまた突然現れました。 # 「ところで、赤ん坊はどうなったかい?」と猫。「あやうく訊くのを忘れるところだった」 # 「ブタになったわ」アリスはまるで猫が自然な方法で戻ってきたかのように、落ち着いて言いました。 # 「そうなると思った」と猫はいって、また消えました。 # アリスはまた会えるんじゃないかと半分期待して、ちょっと待ってましたが、猫は現れませんでした。そこで少したつと、三月兎が住んでいるといわれた方へ歩きました。「帽子屋は前に見たことがあるわ」と独り言。「三月兎はもっと面白いでしょう。それに今は五月だから、多分狂いまくっているわけじゃないでしょ。。。少なくても、三月ほどには。」こういうと、彼女は見上げました。と、そこにはまた猫が居て、木の枝に座っていました。 # 「ブタといったのかい?それともフタと?」と猫。 # 「ブタといったのよ」とアリスは答えました。「それに、そんなに唐突に消えたり現れたりしないでくれる?眩暈がするわ」 # 「分かった」と猫はいって、今度はゆっくりと消えました。尻尾の先から始まって、にやにや笑いが最後でしたが、笑いはそのほかの部分が消えた後も暫く残っていました。 # 「まあ!笑いのない猫は何度も見ているけど」とアリス「猫のない笑いなんて!これまで見た中で一番ヘンなものだわ!」 # それほど長く歩かないうちに、三月兎の家が見えてきました。彼女はそれが兎の家に違いない、と思いました。というのは煙突は耳の形をしており、屋根は毛皮で葺かれていたからです。それは大きな家だったので、彼女は左手の茸のかけら少し齧って2フィートの高さになってから、近くに行きました。それでも彼女はびくびくしながら歩いていました。こう独り言を言いながら。「結局、猛り狂っていたらどうしよう!代わりに帽子屋に会いに行けばよかったかも!」 # キチガイお茶会 # 家の前の木の下にテーブルが置いてあり、三月兎と帽子屋がそこでお茶を飲んでいました。ヤマネが二人の間で座って寝ていました。二人はヤマネの上に肘をついてクッション代わりに使い、ヤマネの頭ごしに喋っていました。「ヤマネは不愉快でしょうね」とアリスは思いました。「でも寝ているんだから、気にならないと思うわ」 # テーブルは大きなものなのですが、三人は角のところに固まっていました。「席はないよ!席はないよ!」と彼らはアリスが来るのを見てがなりたてました。「一杯席があるじゃないの!」とアリスは憤然として言い、テーブルの端にある大きな腕のついた椅子に座りました。 # 「ワインをいかが」と三月兎は勧めました。 # アリスはテーブル見回しましたが、そこにはお茶以外には何もありませんでした。「ワインなんか見えないんだけど」と彼女は言いました。 # 「うん無いよ」と三月兎は言いました。 # 「じゃ、無いものを勧めるというのは余り礼儀正しくないんじゃない?」とアリスは怒って言いました。 # 「招待もされずに座るほうが礼儀正しくないと思うんだがな」と三月兎。 # 「これがあなたたちのテーブルだとは知らなかったの」とアリス。「3人以上のスペースがあるから」 # 「君の髪の毛は伸びすぎてるな」と帽子屋。彼はアリスは好奇心丸出しにして暫く見つめていましたが、これが彼の最初のセリフでした。 # 「他人の批判は言わないほうがいいわね」とアリスは少し厳しく言いました。「とても無礼よ」 # 帽子屋はそれを聞くと、眼を大きく開けました。しかし彼が言ったのは「どうして烏は机に似てるんだ?」でした。 # 「あら、面白くなってきたわ!」とアリスは思いました。「謎々を言い出してくれて嬉しいわ。。。答えを当ててやろうっと。」と彼女は声に出して付け加えました。 # 「答えを当てられると思っているのかい?」と三月兎。 # 「全くその通りよ」とアリス。 # 「じゃ、思っている事を言ってごらん」と三月兎は続けました。 # 「そうするわ。」とアリスは急いで答えました。「少なくても・・・少なくても言いたいことを思うわ・・・・同じことでしょ」 # 「全然同じじゃないね!」と帽子屋。「『食べるものを見る』と『見るものを食べる』が同じだと言っていることになる」 # 「こうも言えるな。」と三月兎が付け加えました。「手に入れるものをほしい」は「ほしいものを手に入れる」と同じ!」 # 「こうも言えるね」とヤマネは眠りながら付け足しました。『眠っているときに息をする』は『息しているときに眠っている』と同じ」 # 「お前の場合、それは同じことだよ」と帽子屋はいい、ここで会話は途切れました。全員はちょっとの間静かになり、その間、アリスは烏と机について覚えている事を全部思い浮かべましたが、大して思いつけませんでした。 # 帽子屋が最初に沈黙を破りました。「今日は何日だい?」彼はアリスのほうを見て言いました。彼はポケットから時計を出し、せわしく見ながら、時々振っては耳に持って行きました。 # アリスは少し考えてから、「四日」といいました。 # 「二日違ってる!」と帽子屋はため息をつきました。「バターは機械には合わないって言ったろ」と彼は三月兎を怒ったように見ていいました。 # 「そいつは最上のバターだぜ」と三月兎は返答しました。 # 「それはそうだが、パン屑も入っちまったに違いない。」と帽子屋は文句を言いました。「パン切りナイフを使ってバターを塗るべきじゃなかったんだよ」 # 三月兎は時計を手にとって、憂鬱そうに見つめました。そしてお茶のカップの中に浸して、また引き上げて見ました。しかし最初のよりもいい言葉を思いつきませんでした。「あれは最高級のバターだったんだよ」 # アリスは好奇心から彼の肩ごしに見ていました。「なんて面白い時計なのかしら!」彼女は言いました。「日にちは分かるけど、時間は分からないわ!」 # 「なんで分かる必要があるんだい?」と兎は呟きました。「君の時計は年を告げてくれるのかい?」 # 「もちろん告げないわ。」とアリスはすぐに答えました。「でもそれは一年は長くて、同じ年がずっと続くからだわ」 # 「それは調度私の場合と同じなんですな」と帽子屋。 # アリスは恐ろしく混乱しました。帽子屋のいう事は全く意味がないように思えたのですが、それでもそれは確かに日本語でした。「あなたが何を言っているのか分からないわ」と彼女はできるだけ丁寧に言いました。 # 「ヤマネがまた寝ているぞ」と帽子屋はいって、ヤマネの鼻に熱いお茶を少し注ぎました。 # ヤマネは我慢できずに頭を振り、眼を開けずに言いました。「もちろん、もちろん。それは調度僕が言おうとしたことだ」 # 「まだ謎々を考えているのかい?」と帽子屋はまたアリスを向いて言いました。 # 「いいえ、諦めたわ」とアリスは答えました。「答えはなに?」 # 「少しも分からないね」と帽子屋。 # 「オレもだ」と三月兎。 # アリスは疲れたようにため息をつきました。「あんたたち、もっと時間を有効に使ったほうがいいと思うわよ」とアリス。「答えのない謎々を出して時間を潰すよりもね」 # 「もし君が私ほど時間君を知っていたら、」と帽子屋は言いました。「時間を潰す、なんていわないだろうね。時間君、て言わなきゃ」 # 「何を言っているのか、分からないわ」とアリス。 # 「もちろん分からないさ」と帽子屋は軽蔑するように頭を上下させました。「君は時間君と話したことさえないんだろう」 # 「多分ないわ」とアリスは注意して答えました。「でも音楽の授業のとき、時を打つのは習ったわ」 # 「おっ、それで分かった」と帽子屋は言いました。「彼は打たれるのが我慢できなかったんだ。もしいい友達でいたら、彼は時計に関することは何でも好きな通りにしてくれるのに。例えば朝九時、調度授業が始まるとき、ちょっと時間君に耳打ちしさえすればいい。そうすれば瞬きする間に時計は一回りして、1時半、昼飯の時間だ!」 # (「本当にそうだといいな」と三月兎はひそひそと独り言を言いました) # 「それは凄いわね、確かに」とアリスは少し考えていいました。「でもそれじゃ、お腹はすいてないでしょ」 # 「うん最初はそうかもしれないな」と帽子屋。「でも好きなだけ一時半のまま止めておくことができるよ」 # 「それがあなたのやり方なの?」とアリスは聞きました。 # 帽子屋は悲しそうに頭を振って、「いや!」と答えました。「時間君とは三月に喧嘩したんだ・・・奴がおかしくなる調度少し前だよ・・・(とティースプーンで三月兎を指しました)「・・・あれはハートの女王の催した大演奏会で、自分はこの歌を歌わなきゃならなかったんだ」 # 「ひらひら落ちる、お空の蝙蝠よ!あなたは一体何狙ってるの!」 # この歌、知ってるだろ?」 # 「似たようなものを聞いたことはあるわ」とアリス。 # 「続きがあるんだよ」と帽子屋。「こんな風に・・・ # 「そら高く飛んでそらのお盆みたいにひらひら・・・」 # きらきら光る、お空の星よ!あなたは一体何の!そら高く浮かんでそらのダイヤモンドのようにきらきら・・・ # ここでヤマネは身震いして、眠りながら謳い始めました。「ひらひら、ひらひら、ひらひら、ひらひら・・・」あまりに長く続けたので、二人はつねって止めさせなければなりませんでした。 # 「さて、自分が一番目の歌詞を終えても居ないうちに、」と帽子屋。「女王は跳ね上がって叫んだわな。『奴は時間を殺しておる!首を斬れ!』」 # 「なんて野蛮なんでしょ!」とアリスは大声をあげました。 # 「それからというもの」と帽子屋は悲しそうに続けました。「彼は私の頼みごとを一切受け付けなくなったんだ。今じゃいつでも六時だ」 # アリスはひらめきました。「だからここにはこんなに沢山の茶道具が散らかってるのね?」と彼女はききました。 # 「その通り。」と帽子屋はため息をつきました。「いつもお茶の時間で、合間に皿を洗う時間がないんだ」 # 「だから席をかえ続けているのね?」とアリス。 # 「その通りさ」と帽子屋。「食器が汚れていくからね」 # 「でも最初に戻ったらどうなるの?」とアリスは思い切ってききました。 # 「話題を変えよう」と三月兎は割り込んで、欠伸しながら「この話題には飽き飽きした。若いお嬢さんが話を聞かせてくれる、に一票。」 # 「悪いけど、話なんて何も知らないわ」とアリスはこの提案に吃驚して言いました。 # 「それじゃ、ヤマネにやらせよう」と二人はわめき、「おきろ、ヤマネ!」と同時に両側からヤマネを抓りました。 # ヤマネはゆっくりと目を開きました。「眠ってないよ」と彼はしわがれて、弱々しい声で言いました。「君たちの言っていることは、みんな聞いていたよ」 # 「話をしてくれ!」と三月兎。 # 「ええ、お願い!」とアリスはせがみました。 # 「それと、早くしろ!」と帽子屋は言い足しました。「でないと、話し終える前にまた眠ってしまうからな」 # 「昔々、三人の姉妹がおりました。」とヤマネは急いで始めました。「姉妹の名前はエルシー、レーシー、チリーでした。三人は井戸の底に住んでおりました。。。」 # 「何を食べていたの?」とアリスは言いました。彼女はいつも食べたり飲んだりことに関しては、強い興味を持っていました。 # 「水飴を食べておりました。」とヤマネはちょっと考えていいました。 # 「そんなことできるはずがないわよね。」とアリスは柔らかく反論しました。「病気になっちゃうわ」 # 「そうです。彼らは」とヤマネ「重い病気でした」 # アリスはそんな変てこな生活がどんなものか、考えてみましたが、あまりにチンプンカンプンだったので、続けていいました。「でもなんで彼らは井戸の底に住んでたの?」「お茶をもっといかが」と三月兎はアリスに勧めました。 # 「まだ何も頂いてないわ」とアリスは怒ったように答えました。「だからもっと沢山だなんて、頂けないわ」 # 「何も飲んでないから、もっと少なく頂くことはできない、と仰るのですな。」と帽子屋。「より沢山頂くことは実に簡単なのですぞ」 # 「誰もあなたの意見なんかきいてないわ」 # 「今、誰が他人の批評をしましたかな?」と帽子屋は勝ち誇ったように尋ねました。 # アリスはこれにはどういえばいいいか、全く分かりませんでした。そこで彼女はお茶とバターつきパンを食べ、ヤマネのほうを向いて、質問を繰り返しました。「なんで彼女たちは井戸の底に住んでいたの?」 # ヤマネはちょっと考えて、いいました。「それは水飴の井戸だったんだよ」 # 「そんなものありっこないわ!」アリスは怒り出しました。しかし帽子屋と三月兎は「しーっ、しーっ!」といいました。ヤマネはむっとして言いました。「もし礼儀を弁えないというのなら、自分で話するといいや」 # 「ごめんなさい、どうぞ続けて!」とアリスはとても素直に言いました。「二度と邪魔はしないわ。そんな井戸があるかもしれないわね」 # 「あるんだよ!」とヤマネは憤然としていいました。しかし、彼は続けることには同意しました。「そしてこの三姉妹は・・・ひくことを学んでいました・・・」 # 「何をひいたの?」とアリスは自分の約束をすっかり忘れて言いました。 # 「釣瓶さ。水飴の」とヤマネは今度は考えずにいいました。 # 「きれいなカップがほしい」と帽子屋が話に割り込みました。「一席ずつ移ろう」 # 彼はそういって移り、ヤマネも続きました。三月兎はヤマネの場所に移り、アリスは渋々三月兎の場所を陣取りました。帽子屋だけがこの席替えで得をした人でした。三月兎が調度ミルク入れを皿にひっくり返したばかりなので、アリスは前よりもずっと悪くなりました。 # アリスはヤマネを怒らせたくありませんでしたから、恐る恐るこう切り出しました。「でも分からないわ。どこから水飴をくんだのかしら」 # 「水の井戸からは水を汲むことができる」と帽子屋。「だから水飴の井戸からは水飴を汲むことができることくらい、誰でもわかることだろ・・・え、あんた、馬鹿かね?」 # 「でも彼らは井戸に居たんでしょ」と最後のセリフは無視して、アリスはヤマネに言いました。 # 「もちろん彼らは井戸の」とヤマネ。「・・・奥にいたさ」 # 可哀想にアリスはこの答えにとても混乱してしまったので、暫くの間、話の腰を折らずにヤマネに喋らせていました。 # 「彼女たちはひき方を勉強していました。」とヤマネは続け、欠伸をして眼をこすりました。というのは眠たくなっていたからです。「全てのものを、『も』で始まるもの全てを、ひいてました。」 # 「なんで『も』なの?」とアリス。 # 「なんで『も』じゃ駄目なんだ?」と三月兎。 # アリスは黙りました。 # ヤマネはこのときまでに目を閉じて、船をこぎ始めていました。しかし帽子屋に抓られて、小さい金切り声をあげて、また起きて続けました。「・・・もで始まるもの、たとえば、モモンガ取り、森、耄碌(もうろく)、ももも・・・『すももも、ももも、もものうち』なんて言うよね。。。もももをひく、なんてことを眼にしたことがあるかな?」 # 「えっ、私にきいてるの」とアリスはすっかり混乱していました。「したことないと思うわ・・・」 # 「じゃ、黙ってるんだな」と帽子屋は言いました。 # アリスはもうこれ以上、無礼な発言には耐えられませんでした。彼女はムッとして立ち上がり、歩き去りました。ヤマネはすぐに眠ってしまいました。他の二人はアリスが出て行くのに少しも注意を払いませんでした。しかし彼女は戻ってこい、といわれるのを半分期待しながら、1,2度振り返りました。最後に彼女が見たのは、彼らがヤマネをお茶のポットに押し込もうとしている姿でした。 # 「どんなことがあろうと、私はあそこには二度と戻らないわ!」とアリスは林の中、道を探しながら言いました。「これまでの人生で、一番馬鹿げたお茶会だったわ!」 # 彼女がこういったとき、ある木が目に付きました。その樹には内側へ通じるドアがついていました。「これはとても変だわ」とアリスは思いました。「でも今日はみんなおかしい。入ってみたほうがいいと思うわ。」そして彼女は入っていきました。 # もう一度、彼女はあの長い広間の、小さなガラスのテーブルのそばにいました。「さあ、今回はうまくやらなきゃ」と独り言を言って、小さな金の鍵を取ることから初め、庭に通じる扉の鍵をあけました。そして茸(彼女はポケットに欠片を入れてました)を齧りにかかり、1フィートの高さになりました。それから小さな通路を歩いて、・・・とうとう、美しい庭の、明るい花壇と涼しげな噴水の間に出ました。 # 女王のクローケー場 # 大きな薔薇の木が庭の入り口近くに立っていました。その木に咲いた薔薇の花は白かったのですが、三人の庭師が忙しそうにそれを赤く塗り替えていました。アリスはなんておかしなことをしているんだろう、と思って、近くによって彼らを見てみました。調度彼らのそばに来たとき、中の一人がこういうのを聞きました。「気をつけろ、5!そんな風にペンキをこっちに撒き散らすな」 # 「しょうがないだろ」と5はむっとして言いました。「7が肘を押したんだ」 # 7はそれを見て言いました。「その通りさ、5!いつも他人のせいばかりにして!」 # 「うるさい、黙れ!」と5.「女王様がお前の首を刎ねる、と言ったのはほんの昨日のことなんだぞ」 # 「何の理由で?」と最初に喋った庭師が言いました。 # 「お前の知ったこっちゃない、2!」と7. # 「そうさ、お前自身のことだぜ!」と5.「7、教えてやるよ・・・たまねぎの代わりにチューリップの根をコックのところに持っていきやがったんだ」 # 7はブラシを投げ捨て、「うぬ、不正な事柄が沢山ある中でも・・・」と言い始めた時、偶然アリスがたって自分たちを見ているのに気付きました。すると彼は突然口をつぐみ、他の二人も周りをきょろきょろ見回して、それから全員が低くお辞儀しました。 # 「すみませんが、」とアリスはちょっとびくびくしながら言いました。「どうしてこの薔薇を塗ってらっしゃるの?」 # 5と7は何も言わずに2を見つめました。2は低い声で言い始めました。「ええ、真実はこうなのです、お嬢さん。ここには赤い薔薇の木があるべきはずだったんですが、我々は間違って白いのを植えてしまったのです。もし女王様がそれを見つけたら、我々は皆、首を刎ねられてしまうでしょう。だからご承知のようにお嬢さん、我々は最善を尽くして彼女が来る前に、塗り・・・」。調度その瞬間、心配そうに庭の向こうを見ていた5が、「女王だ!女王だ!」と叫びました。3人の庭師はすぐにうつ伏せになりました。沢山の足音がして、アリスは女王を見ようと懸命に周りを見回しました。 # 最初にクラブを持った10人の兵士が来ました。彼らは庭師と同じ形をしていました。長方形で平たく、手足は角にありました。次にきたのは10人の廷臣でした。彼はダイヤモンドで全身飾られ、兵隊と同じように二人ずつ歩いてきました。次に来たのは王子・王女たちで、10人おりました。子供たちは二人で手を繋いで、楽しげに飛び跳ねながらやって来ました。彼らはみなハートの縫い取りをつけていました。次にきたのはお客たちで、多くは王と女王でした。その中にアリスはあの白兎がいるのを認めました。兎は神経質に早口で喋っていました。並んで歩いている人が話したことに、みな笑って相槌を打ち、彼女には気付かずに行ってしまいました。そしてハートのジャックが深紅のビロードのクッションの上に王冠を持って続き、この大仰な行列の最後に、ハートの王と女王が来ました。 # アリスは自分も三人の庭師と同じようにうつ伏せになるべきかどうか、ちょっと悩みましたが、行列でこのような規則があると聞いた覚えがありませんでした。「それに、行列の意味なんてないわ」と彼女は思いました。「もしみんなうつ伏せにならなきゃならないとしたら、誰もが行列を見ることができないんじゃない?」そこで彼女はその場所にじっと立って、待ちました。 # 行列がアリスに向かい合うと、お供の人々は立ち止まって、彼女を見つめました。そして女王は厳しく言いました。「これは誰かの?」と彼女はハートのジャックに言いました。彼は返事の代わりにただお辞儀して笑っただけでした。 # 「愚か者が!」と女王は言って、イライラと頭をぐい、と上げました。そしてアリスのほうを向いて続けました。「お前の名前はなんじゃ、子供よ!」 # 「私の名前はアリスでございます、女王様」とアリスは丁寧に言いました。しかし彼女は思いました。「結局のところ、みんな単なるトランプのカードじゃない。恐がることなんかないわ!」 # 「では、こやつらは何じゃ?」と女王は薔薇の木の周りで平たくなっている三人の庭師を指して、言いました。というのは、庭師らはうつ伏せになっており、背中の模様は他のカードと同じでしたので、彼女は彼らが庭師なのか、兵士なのか、廷臣なのか、それとも自分の3人の子供なのか、分からなかったのでした。 # 「なんで私が知っているのよ?」とアリスは自分自身の勇気に、自分で吃驚しながら言いました。「私の知ったことじゃないわ」 # 女王は怒りで真っ赤になり、ちょっとの間、野生の獣のように彼女を睨みつけてから叫びました。「首をちょん切れ!首を・・・」 # 「馬鹿みたい!」とアリスは大きな声で、ズバリといいました。女王は黙りました。 # 王は彼女の腕に手をやり、びくつきながら言いました。「考えてもみなさい、お前。まだほんの子供じゃよ」 # 女王は怒って王に背を向け、ジャックに言いました。「奴らをひっくり返すのじゃ!」 # ジャックは用心深く、片足でそうしました。 # 「立て!」と女王は鋭い、大きな声で言いました。そして三人の庭師はすぐに跳びあがって、王と女王と王子・王女、そしてみんなにお辞儀を始めました。 # 「やめい!」と女王は叫びました。「こっちが眼を回す!」そして薔薇の木のほうを向いて続けました。「ここで何をしておったのじゃ?」 # 「恐れながら、女王様」と2は片足をついて、へりくだった調子で言いました。「私どもは・・・」 # 「分かったぞよ!」と女王は薔薇を点検して、「首を刎ねよ!」といいました。そして行列は続いていき、三人の兵士が不運な庭師らを処刑するのに残りました。庭師らは助けを求めてアリスの傍に駆け寄りました。 # 「首なんか切らせやしないわ」とアリスは言って、彼らを近くにあった大きな植木鉢に入れました。三人の兵士は少しの間辺りを探してうろついてましたが、やがて黙って行列に戻りました。 # 「首は刎ねたかの?」と女王は叫びました。 # 「仰せの通り、首は刎ねました、女王様!」と兵士は大声で答えました。 # 「よろしい!」と女王は叫びました。「そなた、クローケーはたしなむかの?」 # 兵士らは黙って、アリスを見ました。質問は明らかに彼女に向けられていました。 # 「ええ!」とアリスは叫びました。 # 「ならば来い!」と女王は吠えました。そこでアリスは行列に加わり、次に何が起こるか想像しながら歩いていきました。 # 「今日は・・・今日はとてもよい天気ですね!」とびくびくしたふうに、隣の人がいいました。彼女は白兎と一緒に歩いていましたが、彼は彼女の顔を心配そうに覗いていました。 # 「とても」とアリスは言いました。「・・・公爵夫人はどこ?」 # 「しーっ、しーっ!」と兎は低く、急いでいいました。彼は喋りながらしきりに後ろを振り向いて、それから爪先立って口を彼女の耳につけて、「彼女は死刑判決を受けました」と囁きました。 # 「なんの理由で?」 # 「『なんて可哀想!』といいましたか?」と兎。 # 「いいえ、言わないわ。」とアリス。「可哀想なんて少しも思わないわ。私は『なんの理由で?』て言ったのよ」 # 「彼女は女王様の耳を殴ったのです・・・」と兎。アリスはちょっと声を出して笑いました。「あっ、しーっ!」と兎は驚いて囁きました。「女王様に聞かれますぞ!彼女は遅れたので、女王様はこう仰ったのです・・・」 # 「位置につけ!」と女王は雷のように叫びました。人々は四方八方に走り始め、お互いに躓いて転びました。しかしやがて持ち場につき、試合は始まりました。アリスはこんな奇妙なクローケー場は見たことがない、と思いました。それはいたるところ、でこぼこだらけでした。ボールは生きた針鼠でしたし、槌は生きたフラミンゴで、兵士らが二つ折りになって手と足をついて、アーチを作らなければならないのでした。 # アリスにとって最初、一番難しかったのはフラミンゴの扱い方でした。足を垂らしたまま、体を折りたたんで楽に脇の下に抱えるのはうまく行きましたが、フラミンゴの首を真っ直ぐにさせ、針鼠を打とうとするとすぐに、フラミンゴは丸くなって彼女の顔を見つめるのでした。その表情が余りにも困惑したものだったので、彼女は笑い出さずにはいられませんでした。そして彼女が頭を下げさせて、また始めようとすると、針鼠は体を伸ばし、這い出そうとするので、とてもイライラしました。そのほかにも、ハリネズミを打ち込もうという所には至るところに山や谷がありましたし、二つ折りになった兵士たちはいつも立ち上がってグラウンドの向こう側に歩き去ろうとしていたので、アリスはすぐにこれが実にとても難しいゲームだということに気付きました。 # 選手たちはみな順番など待たずに同時に打ってましたし、ずっと言い争いっぱなしで、ハリネズミを巡って喧嘩しっぱなしでした。そしてすぐに女王は激怒し、地団太を踏んで、一分間に一度は「首を刎ねよ!」とか「首を斬れ!」とか怒鳴っていました。 # アリスは段々安閑としてられなくなってきました。実際には彼女はまだ女王と喧嘩をしていないのですが、すぐにでも喧嘩しそうだと分かっていました。「そしたら」と彼女は思いました。「私、どうなるのかしら?ここじゃ、みんな死ぬほど首を切るのが好きだし。不思議なのは、一人でも生きている人が居るってことだわ」 # 彼女は見られないように出て行けないかと思って、抜け道を探して辺りを見回して居ましたが、その時、空中に奇妙なものが見えることに気付きました。最初は大変不思議に思ったのですが、少し見ている間にそれがにやにや笑いだということが分かりました。そして彼女は独り言を言いました。「チェシャ猫だわ。やれやれ、話し相手ができたわ」 # 「ご機嫌はいかがですかな?」と喋るのに十分の口が現れるやいなや、猫は言いました。 # アリスは眼が出てくるまで待ってから頷きました。「話しかけても無駄だわ」と彼女は思いました。「耳が出てくるまでは。少なくても、片耳が出るまで」次の瞬間、頭が全部現れました。そこでアリスはフラミンゴを下に置いて、試合の話を始めました。自分の話を聞いてくれる人がいて、とても嬉しく思いました。猫はこれだけ見えれば十分と思ったらしく、それ以上は現れませんでした。 # 「あの人たちったら、少しもフェアに試合をしないのよ」とアリスは不平を言い始めました。「それにみんな凶暴に言い争ってて、誰も自分の言っていることが聞こえないわ。。。大体特に何かルールがあるようにも見えないし。あったとしても、誰もそれに頓着してないわ。。。それに全てのものが生きているだなんて、どんなに滅茶苦茶か分からないでしょ。例えば、次に私が潜らせなきゃならないアーチがグラウンドの向こう側を歩いていたり・・・それに、私の針鼠が女王の針鼠に正に命中するところだったのに、女王の針鼠は私のが来るのをみて、走り去っちゃうのよ!」 # 「女王はお好きかな?」と猫は低い声で言いました。 # 「全然。」とアリス。「彼女はとっても・・・」調度その時、彼女は女王が自分のすぐ後ろにいて、聞き耳を立てているのに気付きました。そこで彼女はこう続けました。「・・・勝ちそうだわ。他の人が試合を終える意味なんか、ないも同然よ」 # 女王は笑って、通り過ぎました。 # 「誰と話しているのじゃ?」とアリスのほうに歩いてきた王が、好奇心を丸出しにして猫の頭を見ながら言いました。 # 「あれは私の友達です・・・チェシャ猫です」とアリス。「ご紹介しますわ」 # 「あの顔は全然気に入らんな」と王。「しかし、したければ手にキスしてもよいぞ」 # 「いやだね」と猫は言いました。 # 「無礼な奴だ」と王は言いました。「そんな風に余を見るな!」といって、アリスの後ろに隠れました。 # 「猫は王を見てもいいのよ」とアリスは言いました。「どこかの本で読んだわ。どこなのか、思い出せないけど。」 # 「ともかく、どかさねばならん」と王はズバリといって、そばを通りかかった女王を呼びました。「お前、この猫をどかしてくれんか?」 # 女王は大きい問題だろうが、小さい問題だろうが、たった一つの解決策しか持ってませんでした。「首を刎ねよ!」と彼女は辺りも見ずに言いました。 # 「自分で処刑人を連れてくるぞ」と王は言って、駆け去りました。 # アリスは戻って試合がどうなったか見てみたいと思いました。というのは遠くのほうで女王の感情的に叫んでいる声が聞こえたからです。彼女は既に、順番を忘れたからという理由で3人のプレイヤーが死刑宣告されたのを聞いていました。それに彼女は試合の様子が好きになれませんでした。というのは試合は大変混乱していて、彼女は自分の番なのかどうか分からなかったからです。そこで彼女は自分の針鼠を探しに出かけました。 # 針鼠はもう一匹の針鼠と喧嘩していました。そこでアリスはこれを、一匹を打って、もう一匹に当てる絶好のチャンスだと思いました。たった一つの問題は、彼女のフラミンゴが庭のあちら側に行ってしまったことでした。フラミンゴが木立の中へ飛び上がろうとして、無駄な努力をしているのが見えました。 # 彼女がフラミンゴを捕まえて持って帰るまでに喧嘩は終わっていて、両方の針鼠は見えなくなっていました。「でも別にいいわ」とアリスは思いました。「だって、アーチは全部、グラウンドのこっち側からい無くなっちゃったもの」。そこで彼女は逃げないようにフラミンゴを小脇に抱え、猫と、も少し話をするために戻ってきました。 # チェシャ猫のところに戻ってくると、驚いたことに大きな人ごみがその周りにできていました。処刑人と王様と女王の間で、論争が起きていました。3人は同時に喋っており、他の人々は黙っており、かなり不安そうでした。 # アリスが現れると、三人は問題を解決してくれるように彼女に頼んできました。彼らは自分の意見を彼女に向かって繰り返しましたが、みんな同時に喋ったので、彼らが何をいったのかを正確に理解するのは実に難しいことでした。 # 処刑人の意見は、首を切り離すための胴体がなければ、首を斬ることができない、というものでした。今までこのようなものを処理しなければならなかった事なんかないし、今この年になって、し始めるつもりもない、と。 # 王様の意見は、頭のあるものだったら何でも首を刎ねることができるはずだ。馬鹿げたことを申すでない、ということでした。 # 女王の意見は、今すぐにこの猫について何かできなければ全員処刑する、というものでした。(この集団全員が重苦しく、心配そうに見えたのは、この最後のセリフのせいでした) # アリスは「その猫は公爵夫人のです。彼女に尋ねたほうがいいわ」という言葉以外、何も思いつきませんでした。 # 「彼女は牢屋におる」。女王は処刑人に言いました。「ここにつれて来い」。処刑人は矢のように出て行きました。 # 彼が出て行った瞬間、猫の首は消え始め、彼が公爵夫人と一緒に戻ってきたときには、完全に消えていました。そこで王と処刑人は荒々しくあちこちを探し回り、他の人たちは試合に戻りました。 # 偽亀の話 # 「またあなたに会えて、本当にうれしいわ」と公爵夫人はいって、愛情たっぷりにアリスの腕をとって、一緒に歩いていきました。 # アリスは彼女がこんなに上機嫌なのを見て喜びました。そして台所であったときに彼女があんなに凶暴だったのは、たぶん胡椒のせいだと考えました。 # 「もし私が公爵夫人になったら」と彼女は独り言を言いました。(余りありそうもないと思っているようでしたが)、「厨房には胡椒を一粒も置かないようにしよう。胡椒なしでもスープはおいしいわ・・・きっと、人をかっかと短気にさせるのは胡椒のせいね。」と新しい法則を発見して、とても嬉しくなって続けました。「人に酸っぱい思いをさせるのは酢のせいで、人に苦い思いをさせるのはカモミールのせいで、子供たちに甘い思いをさせるのはキャンデーやお菓子のせいで、みんなその事を知ってさえいれば、お菓子をケチらないのに・・・」 # 彼女は空想に夢中になって夫人のことをすっかり忘れていたので、彼女の声が耳のすぐそばで聞こえたのに驚きました。「何か考えてらっしゃるのね、あなた。それで喋るのを忘れているんでしょう。この教訓が何かすぐには言えないけど、すぐに思い出しますわ」 # 「たぶん、それには教訓なんかないでしょう」とアリスは勇気を出して言いました。 # 「ちっ、ちっ、お若いのねえ」と夫人。「すべてのことには教訓があるのです。あなたがそれを見つけられれば、の話ですが」そして話ながら、ぐ、と手を引き寄せてアリスの傍に近づきました。 # まず夫人はとても醜く、次に彼女はアリスの肩に自分のあごを乗せるのにちょうど良い背丈をしており、その顎が鋭く刺さるので、アリスは彼女とそんなにくっついているのはとてもイヤでした。しかし彼女は失礼をしたくはなかったので、できるだけ我慢していました。 # 「試合は前よりはうまく行っているみたいね」と彼女は会話を続けようとしていいました。 # 「そうね」と夫人。「そしてこの教訓は・・・『世界を回すもの、それは愛である』」 # 「誰かが言ったわ」とアリスは小声で言いました。「誰もが自分自身のことだけ気にかけていれば、世界はうまく回るってね」 # 「ええ、そうね!それはまったく同じことを言っているのです」と夫人はいって、自分の鋭く小さな顎をアリスの肩に捻り込みながら、こう付け足しました。「そしてその教訓は・・・『言葉の意味に気をつけていればよし、話し方は自然についてくる』」 # 「なんにでも教訓を見つけたがる人ね」とアリスは思いました。 # 「あなたはなんで私が腕をあなたの腰にやらないか、考えておいでだね?」と夫人は少し間をおいてから言いました。「理由はですね、そのフラミンゴの機嫌が悪いかもしれないからですよ。ちょっと試してもいいですか?」 # 「噛むかもしれないわよ」とアリスは用心深く答えました。彼女はちっとも試してもらいたくなかったのです。 # 「全くその通りです。」と婦人はいいました。「フラミンゴとマスタードは両方とも噛みます。そしてこの教訓は・・・『類は集まる』です」 # 「マスタードは鳥類じゃないわ。」とアリスは突っ込みました。 # 「おお、いつもながら」と夫人は言いました。「はっきりとモノを言うお人ですね」 # 「マスタードは鉱物だと思うわ」とアリス。 # 「もちろんその通りよ。」と夫人は言いました。彼女はアリスが言ったことなら、何でも賛成しているようでした。「この近くには大きなマスタード鉱山があります。そしてその教訓とは・・・『君がコウサン(降参)すれば、私が勝利する』」 # 「あら、いやだ!」とアリスは、この最後のセリフを無視して声を立てました。「マスタードは野菜よ。そのように見えないけど、そうよ」 # 「全くあなたの言うとおりよ」と夫人。「そしてこの教訓は・・・『外観に合わせよ』・・・或いはもっと簡単に言えば・・・『他人に見える姿とは別の自分の姿を想像するな。」 # 「紙に書いておけたら、」とアリスは礼儀正しく言いました。「もっとよく理解できたと思うんですけども。余り仰ることについていけませんでしたわ」 # 「やろうと思えば、何でもありまあせんよ」と夫人は嬉しげに答えました。 # 「済みませんが、それ以上長くなるのは面倒じゃなくて?」とアリス。 # 「面倒だなんて、とんでもない!」と夫人。「今まで言ったことはみんな、あなたにプレゼントするわ」 # 「お安いプレゼントだこと!」とアリスは思いました。「誕生日のプレゼントがそんなものでなくて良かった!」しかし彼女はそれを声に出して言う勇気はありませんでした。 # 「また考えてらっしゃるの?」と夫人は鋭い小さな顎で、もう一突きくれました。 # 「私には考える権利があるわ」とアリスは鋭く言いました。というのは彼女は少しイライラし始めていたからです。 # 「権利、そうね、」と夫人。「ブタにも空を飛ぶ権利があるわ。そしてこの教・・・」 # しかしここで、アリスの驚いたことには、彼女の大好きな単語「教訓」を喋っていると中だったのに、夫人の声は細くなっていき、アリスの腕に巻きついていた腕は震えだしました。アリスが見上げると、二人の前には女王が立っていました。女王は腕組みをして、雷雨のような恐ろしいしかめっ面をしておりました。 # 「いいお天気ですこと、陛下!」と夫人は低く、弱弱しい声で語り駆けました。 # 「一つ、公明正大な警告を与えてやろう」と女王は地面をだんだんと踏みながら、怒鳴りました。「お前か、お前の首か、どちらかが去れ。すぐにだ!好きなほうを選択するのじゃ!」 # 夫人は選択をして、あっという間に走り去りました。 # 「試合を続けよう」と女王はアリスに言いました。アリスは驚いて何も言えず、すごすごと彼女の後についてクローケー場に戻りました。 # 女王の居ぬ間の洗濯とばかり、招待された客たちは木陰で休んでいましたが、女王の姿が見えるや否や、みんな試合に急いで戻りました。女王は単に一瞬の遅れも死に値する、と言っただけでした。 # みんなが試合をしている時にも、女王は他の選手たちと喧嘩するのをやめずに、「こやつの首を斬れ!」とか「あやつの首を斬れ!」とか怒鳴っていました。死刑宣告された人々は兵士が留置所に連れて行きました。ところが兵士はもちろん、そのためにアーチを作るのを止めなければなりませんでしたから、半時間やそこらもすると、そこにはアーチは一つもなくなってしまいました。そして王様と女王とアリス以外の選手はすべて留置場に連れて行かれ、死刑を宣告されてしまいました。 # すると女王は大層息を切らしてクローケーやめ、アリスに言いました。「偽亀を見たことがあるかの?」 # 「いいえ」とアリス。「偽亀が何かさえ、知らないわ」 # 「それは偽亀スープの材料じゃ。」と女王は言いました。 # 「見たことも聞いたこともないわ」とアリス。 # 「では来るがよい」と女王。「奴に身の上話をさせよう」 # 二人が一緒に歩き去っていくと、アリスは王様が低い声でみんなに「お前たちはみんな赦免されたぞ」というのを聞きました。「あら、いいことね!」と彼女は思いました。というのは彼女は女王が命令した処刑が余りに多いので、哀しく思っていたのです。 # 二人はすぐにグリフォンの所につきました。グリフォンは日の光を浴びてぐっすり寝ていました。(もしグリフォンを知らないのでしたら、挿絵を御覧なさい)。「起きろ、怠け者が!」と女王は言いました。「この娘ごを連れて偽亀に会いに行き、あやつの話を聞かせてくるのじゃ。わらわはわらわが命じた処刑がきちんと行われたかどうか、見に戻らねばならぬ。」そして彼女は歩き去りました。後にはアリスとグリフォンが残されました。アリスはそのイキモノの姿が余りスキではありませんでしたが、結局、あの野蛮な女王の後を追いかけるのも、このイキモノと一緒に居るのも安全という点ではどっこいどっこいだと思ったので、彼女は待つことにました。 # グリフォンは体を起こし、眼をこすりました。そして見えなくなってしまうまで、女王を見ていました。それから舌打ちをして「馬鹿馬鹿しい!」と半分は自分に、半分はアリスに言いました。 # 「何が馬鹿馬鹿しいの?」とアリス。 # 「何がって、彼女さ。」とグリフォン。「みんな彼女の作り話さ。誰も誰を処刑したりなんかしないのさ。さあ、行くぞ!」 # 「ここじゃ、誰もが『行くぞ』っていうのね」とアリスは思いました。そしてゆっくりとその後を続けました。「これまでの人生の中で、こんなに命令されたことなんかないわ。絶対にない!」 # 暫く行くと、遠くに偽亀が見えました。偽亀は悲しそうに岩の小さなでっぱりに座っていました。そして二人が近づくと、心臓が張りさけんばかりにため息をついているのが聞こえました。アリスは亀に深く同情しました。「何が悲しいの?」と彼女はグリフォンにききました。グリフォンは答えましたが、それは前言ったのとほとんど同じでした。「みんな彼の作り話さ。奴には何も悲しみなんてないのさ。さあ行くぞ!」 # そこで二人は偽亀の所に上って行きました。亀は大きな眼一杯に涙をためて、二人を見つめていましたが、何も言いませんでした。 # 「ここのお嬢さんは、」とグリフォン。「お前の身の上話を知りたいんだとさ」 # 「お話しましょう。」と偽亀は深い、虚ろな声で言いました。「お座り、君たち二人とも。でも僕が終えるまで一言も喋らないでね」 # そこで二人は座りました。何分かの間、誰も喋りませんでした。アリスは思いました。「始めないんだったら、終えることさえできないじゃないの」。けれども彼女は我慢強く待ちました。 # 「昔、」と偽亀は遂に深いため息をついて、いいました。「僕は本当の亀だったよ」 # このセリフの後、長い沈黙が続きました。沈黙の他には、時々グリフォンの「ヒィックルー!」という呻き声と、偽亀の止まらない重苦しいすすり泣きがするばかりでした。アリスはほとんど立ち上がって「面白い話を聞けて、有難うございました」と言う寸前でしたが、続きがあるに違いないという思いを棄て切れなかったので、じっと座って何も言わずにいました。 # 「小さい頃には」ととうとう偽亀は続けました。今度はずっと穏やかな調子でしたが、時々まだ少しすすり泣きをしました。「僕たちは海の学校に行ってたんだ。話をしてくれてたのは、年取った亀だった。。。僕たちは彼の事を亀じゃない、て言ってた・・・」 # 「なんで亀なのに、亀じゃないって言ったの?」 # 「先生はハナシ(歯無し)だったので、カメナイ(噛めない)って言ったんだ」と偽亀は怒りました。「本当に君は鈍いな!」 # 「そんな簡単な質問をするなんて、恥ずかしいと思わないのかね」とグリフォンは付け加えました。そして二人は黙って座ってアリスを見つめました。かわいそうにアリスは地面に穴があったら入りたい、と感じました。とうとうグリフォンが偽亀に言いました。「続けろよ、日が暮れちまうぜ!」そこで亀は次のように続けました。 # 「そう、僕たちは海の中にある学校に通っていたんだ、君には信じられないかもしれないけどね・・・」 # 「信じない、なんて言ってないわ」とアリスは割り込みました。 # 「言ったね」と偽亀。 # 「口を慎め!」とアリスが何か言う前にグリフォンが言いました。亀は続けました。 # 「僕たちは素晴らしい教育を受けたのです・・・実際、僕は毎日学校に通っていたんだ・・・」 # 「私だって毎日通ってるわよ」とアリス。「そんなに自慢することじゃないわ」 # 「選択授業もかい?」と偽亀は少し心配そうに尋ねました。 # 「そうよ」とアリス。「私はフランス語と音楽を習ったわ」 # 「洗濯もかい?」と亀。 # 「習うわけないわ!」とアリスは憤然として言いました。 # 「ふ!じゃ、君のは余りいい学校じゃないな。」と亀はとても安心したように言いました。「僕たちの学校の請求書の最後には、『フランス語、音楽、洗濯・・選択授業』とあるんだ」 # 「海の底にいるんじゃ、」とアリス。「洗濯なんかあまり必要ないでしょ」 # 「僕はそれを学ぶだけの余裕がなかったんだ。」と亀はため息をついて言いました。「僕は普通課目だけ取ったんだ」 # 「それはなんなの?」とアリスは訊きました。 # 「もちろん、まずは呼び方、掻き方」と亀は答えました。「そして四則計算・・・多死算、悲喜算、悪算(わるざん)、賭け算」 # 「『悪算』なんて聞いたこともないわ。」とアリスは思いきって言いました。「なんなの、それ?」 # グリフォンは驚いて両方の前足を上げ、「何だって!悪算を聞いたことがないだって!」と叫びました。「美化が何か知っているだろう?」 # 「ええ。」とアリスは自信なさそうに言いました。「それは・・・何かを・・・綺麗に・・・するという意味よ」 # 「それじゃ、」とグリフォンは続けました。「悪化が何か知らないというんじゃ、君は単細胞だ。」 # アリスはこれ以上何かきく勇気がなかったので、亀の方を向いていいました。「そのほかに何を習ったの?」 # 「えーと、轢死があったよ」と亀は自分の鰭で課目を数えながら言いました。「・・・轢史、古代人と近代人の。海地理、それから媚術(びじゅつ)・・・媚術の先生は年取ったアナゴで、週に一回だけ来てたんだ。彼は羨描、ドケッチ、危な絵を教えてくれたよ」 # 「それって、どんなものなの?」とアリス。 # 「うーん、やって見せてやれないな。」と亀。「僕は体が硬すぎるんだ。グリフォンときたら習ったこともないし」 # 「時間がなかったんだ」とグリフォン。「でも俺は古典の先生の所に通ってたよ。年取った蟹だったよ、先生はね」 # 「彼の所には通ったことはないな」と亀はため息をつきました。「先生は珍文(ちんぶん)と奸文(かんぶん)を教えていたそうだね」 # 「そうそう、教えていたね」とグリフォンもため息をつきました。そして二人とも前足で顔を隠しました。 # 「で、一日何時間の時間割だったの?」とアリスは急いで話題を変えようとしました。 # 「最初の日は10時間。」と亀。「次の日は9時間。あとは同じように減って行く」 # 「なんておかしな時間割!」とアリスは声を上げました。 # 「時間を割れば」とグリフォンは言いました。「一日ごとに減っていくのは当たり前だろ」 # これはアリスが始めて聞く発想でした。彼女はそれを暫く吟味してから、次のセリフに移りました。「じゃ、11日目は休日になるはずね?」  # 「もちろんそうさ」と亀。 # 「で、12日目はどうするの?」とアリスはツッコミました。 # 「時間割の話はもう結構だ」とグリフォンはズバリと言い切りました。「今度はゲームのことを何か話してやれ」 # 海老のカドリール # 偽亀は深くため息をついて、片方の鰭の裏で眼を覆いました。彼はアリスを見て、喋ろうとしましたが、すぐに泣き声がこみ上げてきて喋れなくなってしまうのです。「喉に骨が刺さったのと同じだね」とグリフォンが言って、彼を揺さぶったり、背中を叩いたりするのに取りかかりました。やっと亀は喋れるようになって、頬を涙でぬらしながらまた続けました・・・ # 「君は海の底で余り長く過ごしたことがないだろう・・」(「ないわ」とアリス)・・・「それに海老を紹介されたことも多分ないだろう・・・」(アリスは「食べたことなら・・・」と言い掛けましたが、急いで口をつぐんで、「いいえ、全然ないわ」と言いました)「・・・だから君は海老のカドリールがどんなにステキなものか、知らないだろうね」 # 「ええ、知らないわ」とアリス。「どんなダンスなの、それ?」 # 「そうさな。」とグリフォン。「まず海岸に沿って一列になるんだ・・・」 # 「二列だ!」と亀は大声をたてました。「アザラシ、海亀、鮭、などなどだ。そして通り道からクラゲをぜんぶ取り除いてから・・・」 # 「それにゃ、大抵幾らか時間がかかるがね」とグリフォンが遮りました。 # 「・・・二歩前進して・・・」 # 「各歩とも、海老とパートナーを組んでだ!」とグリフォン。 # 「もちろん」と亀。「二歩進んで、パートナーと向きあって・・・」 # 「・・・海老を替えて、同じ順序で元に戻る。」とグリフォンは続けました。 # 「それから、」と亀。「投げるんだ・・・」 # 「海老を!」とグリフォンはポン、とさけんで跳びあがりました。 # 「・・・できるだけ沖に・・」 # 「海老を追っかけて泳ぐ!」とグリフォンは叫びました。 # 「海中で宙返りして」と亀は荒々しく跳びはねました。 # 「海老を換えて!」とグリフォンは声の限り叫びました。 # 「陸に戻って、最初の形に戻る」と亀は言って、急に声を落としました。そして二匹はキチガイのように飛び跳ねるのをやめて、悲しげに黙って座りました。そしてアリスを見つめました。 # 「とてもステキなダンスでしょうね」とアリスは恐る恐る言いました。 # 「少し見てみたいかい?」と亀。 # 「ええ、とっても。」とアリス。 # 「じゃ、最初の形を試して見よう!」と亀はグリフォンに言いました。「海老がなくてもできるだろ。どっちが歌う?」 # 「お前が歌えよ。」とグリフォン。「オレは歌詞を忘れちまった」 # そこで二匹はアリスの周りを厳かに踊り始めました。前足をふって拍子を取るのですが、時々近づきすぎて彼女の足を調子を踏みました。その間中、亀はとてもゆっくりと悲しげにこのように歌いました。 # 「『も少し速く歩いてくんない?』と鱈が蝸牛に言いました。『後ろにイルカがいて、僕の尻尾を踏んでいるんだ。ごらん、海老と海亀はみんな熱心に進んでる。みんな砂利のところで待っている。。。ダンスに入らないか? # 入る、入らない、入る、入らない、ダンスに入る?入る、入らない、入る、入らない、ダンスに入らない? # 『ダンスがどんなにステキなものか、お分りでないでしょう。海老と一緒に持ちあげられて、海に放り投げられる素晴らしさ!しかし蝸牛は『遠すぎる、遠すぎる』と答えて横目で見ました。。。蝸牛は親切に鱈にお礼を言いましたけれども、ダンスには入りませんでした。 # ダンスには入りたくない、踊れない、入りたくない、踊れない、入りたくない。ダンスには入りたくない、踊れない、入りたくない、踊れない、踊れない。 # 「『沖すぎるだなんて、気にする必要はないだろ?』と鱗のいっぱいついた友達が答えました。『向こうには向こう岸がある。イギリスから遠くなればなるだけ、フランスには近くなる・・・だから血の気を引かすなよ、蝸牛君、ダンスに加わろうよ。 # # 「ぼくのお店に入らないか?」と蜘蛛は蝿に言いました、君が見た中で一番ステキな小さなお店だよ。「ぼくの店への道は曲がりくねった階段を上ればいい、そこについたら一杯面白い物を見せてあげるよ。」「いえいえ、だめよ」と小蝿は言いました。「頼んでも無駄よ、あなたの曲がった階段を上ったもので、戻ってきたのは一人もいないもの」 # 「用心深くなるのも無理はないよ、君、そんなに空高く飛んでるんだからね。僕の小さなベッドで休まないか?」と蜘蛛は蝿に言いました。「可愛いカーテンが周りに引いてあるんだ。シーツは上等で薄くて、もしちょっと休みたけりゃ、きちんと布団で包んであげるよ!」「いえいえ、だめよ」と小蝿は言いました。「なんども聞いたもの、あなたのベッドで眠り込んだものは、絶対、絶対に目覚めることはないって」以下延々と続くが、略。勿論、この蜘蛛は甘言を弄して蝿を誘い込んで食べてしまおうというのだ。そして子供たちに向かって「だから気を付けなさい」でこの詩は終わる。このような教訓詩がルイスはことの他、癪に障ったようだ。 # 「ありがとう、とっても楽しく見れたダンスだったわ」とアリスはやっとダンスが終わってほっとしました。「それに鱈のへんてこな歌もね」 # 「お、鱈といえばだな」と亀。「あいつら・・・あいつらを見たことがあるよね、もちろん?」 # 「ええ」とアリスはいい、「何度も見ているわよ、晩ごはんで・・・」と言い掛けて急いで口をつぐみました。 # 「バンゴハンがどこなのかは知らないけど、」と亀。「そんなに何度も見ているんなら、もちろんそれがどんなものか知っているよね」 # 「そうだと思うわ」とアリスは考えてから言いました。「口の中に尻尾があって・・・全身パン粉まみれでしょ」 # 「パン粉については間違っているな」と亀。「パン粉は海の中では全部洗い落とされてしまうだろ。でも鱈は口の中に尻尾がある。その理由は・・・」ここで亀は欠伸をして眼を閉じました。。。「彼女に理由をお仕舞いまで聞かせてやれ」とグリフォンに言いました。 # 「理由は」とグリフォン。「鱈は海老とダンスに出かけたんだ。で、海の中に投げ込まれた。で、ずっと長いこと落ちていったんだな。で、尻尾を口の中にしっかりと押し込んでいたんだな。で、解くことができないんだな。それでお仕舞い。」 # 「ありがと。」とアリス。「とっても面白かったわ。これまで鱈についてそんなに知らなかった」 # 「聞きたければ、もっと教えてあげよう」とグリフォン。「なんであの魚はタラと呼ばれているか知っているかい?」 # 「そんなこと考えたこともなかったわ。」とアリス。「なんで?」 # 「それは長靴と靴をやるからだよ」とグリフォンは厳かに答えました。 # アリスはすっかり混乱しました。「長靴と靴をやる!」と彼女は不思議そうに繰り返しました。 # 「なんでって、君は何で靴をやるんだ?」とグリフォン。「何で靴をピカピカにするのか、ていう意味だよ」 # アリスは彼らを見下ろし、少し考えてから答えをいいました。「靴はゾウキンでやるんだとおもうわ」 # 「海の中では」とグリフォンは太い声で続けました。「タライでやるんだ。海にはゾウ(象)なんていないからね」 # 「じゃ、靴は何でできてるの?」とアリスは好奇心を丸だしにしました。 # 「もちろん、靴底ヒラメと紐ムシだよ」とグリフォンはイライラして答えました。「小エビだって知ってることだぞ」 # 「もし私が鱈だったら」とアリスはまだ先ほどの歌を考え続けながらいいました。「イルカにいうわ。『お願い帰ってちょうだい。ここに居て欲しくないの』」 # 「鱈はイルカと一緒でなければいけないのです」と亀。「賢い魚はどこにいくのでもイルカを連れて行くのです」 # 「それってホントじゃないでしょ」とアリスは吃驚しました。 # 「ホントだよ」と亀。「なぜって、もし魚がきて旅行に行きますよ、と言ったら僕は『旅行中はどこにイルカ?』っていうだろうよ?」 # 「『居るか』っていう?」とアリス。 # 「言った通りの意味だ。」と亀は怒ったように答えました。 # そしてグリフォンは「さあ、君の冒険の話を聞こうじゃないか」と付け加えました。 # 「今朝からの・・・冒険をお話しできるわ」とアリスは少し引きながらいいました。「でも昨日まで戻る必要はないわ。だって、その時は違う人だったんですもの」 # 「全部説明してくれ」と亀。 # 「いやいや、冒険が先だ。」とグリフォンは待ちきれないようでした。「説明は死ぬほど時間がかかるからな」 # そこでアリスは最初に白うさぎを見た。二匹は一匹ずつ彼女の両側にぴったりくっついて、目口を大きく開けていたので、彼女は最初はびくついていたのですが、話すにつれ気が大きくなりました。彼女の聴衆は完全に静かにしてましたが、彼女が「年だよ、ウィリアム父さん」を芋虫に暗誦しては、全部違う言葉になってしまった下りにさしかかると、亀は深呼吸して「そりゃへんだ」といいました。 # 「まったくへんてこだ」とグリフォン。 # 「ぜんぜん違う!」と亀は考えてから繰り返しました。「何か別のを暗誦してみてほしいな。始めてくれるよう、言ってくれないか」と彼はグリフォンを見ました。亀はまるでグリフォンがアリスに命令するなんらかの権限を持っていると思っているようでした。 # 「立って『これが怠け者の声』を暗誦してみなさい」とグリフォンが言いました。 # 「動物が人間に命令するなんて。暗誦させるなんて!」とアリスは思いました。「すぐにでも学校に戻りたいわ」。しかし立ち上がってその詩を暗誦し始めました。けれども彼女の頭はエビのカドリールのことで一杯だったので、自分が何を言っているのかほとんど頓着できずに、文句は実におかしな具合になりました。。。 # 「これがエビの声。海老がこう言うのを聞いた。『こんがり焼きすぎだ、髪に砂糖をふらねばならん』家鴨は睫毛で、エビは鼻でベルトとボタンをとめて、つま先を広げる」 # 砂がすっかり乾いたら、エビはヒバリのように快活で、鮫を馬鹿にするだろう。でも潮が満ちて鮫が出てきたら、その声はビクビクと震える。 # 「これが怠け者の声。怠け者が不満をこぼすのを聞いた。『起こすのが早すぎだ!また寝なければならん!」ドアは蝶番で、怠け者はベッドで両脇をと肩と、重い頭を回す。 # 『も少しねかせてれ、も少しうとうとさせてくれ』それで半日も、何時間も浪費する。そして起きた時には、手を曲げたりぶらつたりして、時間をつぶす。 # 「子供の時に聞いていたのとは違うな」とグリフォン。 # 「うん、聞いた事もないね」と亀。「異常なほどの馬鹿馬鹿しさだよ」 # アリスは何も言わずに、顔を両手で覆って座りました。彼女は物事がまた元通りにならないかなあと思っていたのです。 # 「説明してもらいたいね」と亀。 # 「彼女には説明できないさ」とグリフォンは急いで言いました。「次の文句に行こう」 # 「でもエビのつま先はどうなったの?」と亀は拘りました。「どうやって鼻でつま先を開くのかな?」 # 「それはダンスの最初の位置よ」とアリスは言いましたが、全てのことに死ぬほど困惑していたので、話題を変えようと切実に願いました。 # 「次の文句を言う!」とグリフォンはイライラした様子で繰り返しました。「文句は『庭を横切って』で始まるぞ」 # アリスには逆らう勇気がありませんでした。でも彼女は全然違う文句になってしまうという予感はありましたので、震え声で続けました。。。 # 「庭を横切って、片眼で見た、フクロウとヒョウがパイを分け合っていた・・・豹はパイ皮とタレと肉を取った、一方フクロウは誤馳走の分け前として皿をもらった、 # パイが食べ終えられると、フクロウはスプーンをもらった。一方豹は唸りながらナイフとフォークをもらった。そして晩餐を終えた・・・ # 庭を横切って、雑草を見た、棘と花が、広く高く伸びていた、怠け者の着物はボロに変わっており浪費はとまらず、遂に飢えに苦しみ物乞いをする。 # それでも彼の所を訪れた、彼が心を入れ替えることを期待して。彼は自分の夢や食べたり飲んだりすることを話してくれたが、聖書はほとんど読まず、少しも考えることを好まなかった。 # そこで自分は自分に言い聞かせた、「これはお前への教訓だぞ」この男は、自分のことであったかもしれない。しかし私の世話をしてくれた人々が、私に勤労と読書を愛することを、おりよく教えてくれたのだ。 # 「そんなことばかり繰り返しても、」と亀は邪魔しました。「説明しなければ駄目だろう?今まで聞いた中で一番無茶苦茶なものだぞ」 # 「そうだな。もうやめた方がいいな」とグリフォンは言いました。アリスも喜んでそうしたかったのです。 # 「別のエビのカドリールをやってみようか」とグリフォンは続けました。「それとも亀に歌を歌って貰うおうか?」 # 「あらそうなの。じゃ歌をお願い。偽亀さん。」とアリスは熱心に答えました。これはグリフォンには気に入らなかったようで、彼は「ふん、趣味が悪いな!おい、『亀のスープ』を歌ってやれよ」 # 亀は深くため息をついて、始めました。声は時々すすり泣きで途切れました・・・ # 「ステキなスープ、味わい豊かで野菜が一杯熱い茶碗で待っている!こんなごちそうの前じゃ誰もが我慢できない。晩ご飯のスープ、ステキなスープ!晩御飯のスープ、ステキなスープ! # すーぅてきなスーゥプ!すーぅてきなスーゥプ!ばーあーん御飯のスーゥプステキな、ステキなスープ! # 「ステキなスープ!魚や肉、他の料理なんかどうでもいい。たった2ペニー分のスープでも、手に入れられるなら何でも出すぞ。いや、たった1ペニー分でも。 # # キレイな星、天上できらめく、しずかに銀の光を降らせる、地上から離れるに従って。夜の星、キレイな星、夜の星、キレイな星。 # # 「合唱のとこをもう一度!」とグリフォンは叫ぶと、亀は繰り返し始めました。その時「裁判を始める!」という声が遠くでしました。 # 「来な!」とグリフォンは叫んで、アリスの手を取って急いでそこを去りました。歌はまだ終わってませんでした。 # 「何の裁判なの?」とアリスは走りながら喘ぎました。しかしグリフォンはただ「来な!」というばかりで、もっと速度を上げるのでした。二人を追ってそよ風が運ぶのは、亀の言葉でした。言葉は次第次第にかすかになっていきました。 # 「ばーあーんご飯のスーゥプ、ステキな、ステキなスープ!」 # タルトを盗んだのは誰? # 二人がついた時、ハートの王様と女王は王座についていて、その周りに沢山の人々が集まっていました。それらは色んな種類の小鳥、獣、それに全部のトランプのカードでした。ジャックは鎖で繋がれ、両側を兵士に護衛されて、王と女王の前に立っていました。そしてジャックの近くには白兎が片手にトランペットを持ち、もう片手に羊皮紙の巻物を持っておりました。裁判所の丁度真ん中にはテーブルがあり、その上にはタルトが置かれていました。タルトは美味しそうに見えたので、アリスは物欲しそうにそれを見つめました。。。「裁判が終わって、」と彼女は思いました。「お菓子でも振舞ってくれるといいんだけど!」しかしそんな様子はないようでしたので、彼女は周りの物事を観察して、時間を潰し始めました。 # アリスは法廷に行ったことはありませんでしたが、本で読んだことはあり、そこにあるものほとんどの名前を知っていることに気付いて嬉しく思いました。「あれは裁判官ね」と彼女は独り言を言いました。「だって、立派なカツラをつけているもの」 # ところで裁判官は王様でした。彼はカツラの上に王冠を被っているので(彼がどうやった見たいのでしたら、口絵を御覧なさい)、全然キモチ良さそうには見えませんでしたし、全く似合ってもいませんでした。 # 「あれが陪審員席だわ」とアリスは思いました。「あそこの12匹のイキモノが、」(彼女は丁寧に「イキモノ」と言いました。というのは何匹かの陪審員は動物でしたし、何匹かは鳥でした)「陪審員だと思うわ。」彼女は得意げに陪審員という単語を2,3回繰り返しました。というのは彼女と同い年で、そんな言葉を知っている少女など滅多にいないだろう、と思ったからです。そして、それは実際そうでした。もっともそんな難しい言葉でなく、「裁判に加わる人」でも通じたでしょうけど。 # 12人の陪審員はみんな忙しそうに石版に何やら書いてました。「あの人たち、何してるの?」とアリスはグリフォンに囁きました。「裁判が始まっていないのに、何も書くことなんかないじゃないの」 # 「あいつらは自分の名前を書いているんだ」とグリフォンは囁き返しました。「裁判が終わる前に忘れてしまわないようにな」 # 「馬鹿ばっか?」とアリスは怒ったように大声を出しましたが、すぐに口をつぐみました。白兎が「法廷では静粛に願います!」言い、王様が眼ガネをかけて辺りを不安そうに見回し、誰が喋ったかを見つけようとしたからでした。 # 肩ごしに覗きこむように、アリスには陪審全員が石版に「馬鹿?」と書いているのが見えました。さらにその中の一人は「馬鹿」をどう書くか知らず、隣の人に教えてくれと頼んでいるのが分かりました。「裁判が終わる前にあの人たちの石版はぐじゃぐじゃになってしまうわね」とアリスは思いました。 # ある陪審の鉛筆はキーキー音を立てていました。これには勿論、アリスは耐えられませんでしたので、彼女は法廷をくるっと回ってその人の後ろに行き、さっと鉛筆を取り上げてしまいました。彼女はとても素早くそれをやったので、その小さな陪審(それはトカゲのビルでした)は可哀想に、何が起きたのかさっぱり分かりませんでした。あちこち鉛筆を探した後、ビルはその日の終わりまで指で書かざるをえませんでしたが、指では石版に印をつけられませんから、ほとんど役に立ちませんでした。 # 「伝令よ、告発文を読み上げよ!」と王様。 # これを受けて白兎はトランペットを三回鳴らし、羊皮紙の巻物を広げ、このように読み上げました。。。 # 「ハートの女王、彼女はタルトを作った、夏の日に。ハートのジャック、彼はそのタルトを盗んだ、そしてそれを持って逃げた!」 # 「お前たち、判決を考えなさい」と王様は陪審員に言いました。 # 「まだです、まだです!」と兎は慌てて遮りました。「その前に色々あります!」 # 「最初の証人を呼べ」と王様は言いました。白兎はトランペットを三回鳴らし、「最初の証人!」と言いました。 # 最初の証人は帽子屋でした。彼は片手にティーカップを持ち、もう片手にバターのついたパンを持って出てきました。「お許しください、陛下、」と彼は言い始めました。「このようなものを持ち込むことを。ですが召喚された時、まだお茶を終えてなかったものですから」 # 「今はもう終えている時間であろう」と王様。「いつ始めたのじゃ?」 # 帽子屋は三月兎の方を見ました。兎はヤマネと手を繋いで帽子屋の後をついて法廷に来ていました。「3月14日だと思います。」と彼は言いました。 # 「15日だ」と三月兎。 # 「16日だよ」とヤマネが言い添えました。 # 「書き留めよ」と王様は陪審員に言いました。陪審員は熱心に三つの日付を全部石版に書き留めては、足したり引いたりして、何シリングだとか何ペンスだとかいう答えを計算してました。 # 「帽子を取りなさい」と王様は帽子屋に言いました。 # 「それは私めのではございません」と帽子屋。 # 「盗品だな!」と王様は陪審員の方を向いて騒ぎました。陪審員はすぐにそのことをメモりました。 # 「それを売り物です」と帽子屋は釈明しました。「私自身の帽子なんてありません。私めは帽子屋です」 # ここで女王は眼ガネをかけて、帽子屋を睨み始めました。帽子屋は青くなり、そわそわし始めました。 # 「証拠をあげよ」と王様はいいました。「びくびくするのはやめい。やめんとその場で処刑するぞ」 # この言葉は少しも証人を安心させたようには見えませんでした。彼は足は左右交互に体重をかけ、女王を不安そうに見つめ続けました。そして動顚して、バタつきパンの代わりにティーカップをがぶりとかじりました。 # 丁度この瞬間、アリスはおかしな感覚がしました。彼女はしばらく考えてましたが、やがてそれが何か分かりました。彼女はまた大きくなり始めていたのです。最初、彼女は立ち上がって法廷を出ていこうと思いましたが、思い直して部屋に居られる空間があるまではそこに居ようと決めました。 # 「そんなに押さないでくれよ」と隣に座っていたヤマネが言いました。「息ができないじゃないか」 # 「しょうがないの」とアリスは言いました。「私、大きくなっているの」 # 「ここでは大きくなる権利なんかないよ」とヤマネ。 # 「馬鹿なこと、言わないで」とアリスは大胆に言いました。「あなただって、大きくなってるじゃないの」 # 「うん。でも僕はほどほどのペースで大きくなっている。」とヤマネ。「そんな馬鹿げたペースでないよ」そして不機嫌に立ち上がって、法廷を横切って向こう側に行ってしまいました。 # この間中も女王は帽子屋を睨みつけるのを止めませんでしたが、丁度ヤマネが法廷を横切った時、廷吏の一人に言いました。「この前の演奏会の歌手のリストを持って来い!」この言葉に惨めな帽子屋は震え上がり、靴が両方とも脱げてしまいました。 # 「証拠を提出せよ」と王様は怒って繰り返しました。「さもなければ処刑するぞ。お前がびくついていようが、いまいが」 # 「私めは哀れな男でございます、陛下。」と帽子屋は震え声で言い出しました。「・・・私めはお茶を始めてもおりません・・・一週間やそこらも・・・それにバタつきパンも次第に薄くなってきました・・・お茶のチカチカも・・・」 # 「なんのチカチカじゃ?」と王様。 # 「それは茶で始まります」と帽子屋。 # 「もちろん、チカチカはチで始まりおる!」と王様は鋭く言い放ちました。「そちは余を馬鹿にしておるのか?続けよ!」 # 「私めは哀れな男でございます」と帽子屋。「そのからというもの、ほとんどの物事はチカチカするのです・・・ただ、三月兎が言うことなのです・・・」 # 「言ってないぞ!」と三月兎は急いで割り込みました。 # 「言ったじゃないか!」と帽子屋。 # 「否定する!」と三月兎。 # 「彼は否定しておる」と王様。「その所は飛ばそう」 # 「えー、いずれにせよ、ヤマネが言うには・・・」と帽子屋はヤマネを見ながら続けました。というのはヤマネが自分の言葉を否定するかどうか不安だったからです。しかしヤマネはぐっすり寝ていたので、何も否定しませんでした。 # 「その後、」と帽子屋。「私は何枚かバタつきパンを切り取りました・・・」 # 「しかしヤマネはなんと言ったのですか?」とある陪審員が尋ねました。 # 「覚えておりません」と帽子屋。 # 「思い出すのじゃ」と王様。「でないと処刑するぞ」 # この惨めな帽子屋はティーカップとバタつきパンを落とし、膝をつきました。「私めは哀れな男でございます、陛下」。 # 「お主は哀れな話し手じゃ」と王様。 # ここであるモルモットが拍手喝さいしましたが、すぐに廷吏たちに鎮圧されました。(この言葉はちょっと難しい言葉ですので、どんなことが起きたか説明することにしましょう。役人は口に閉じ紐のついた大きな麻袋を持ってきて、その中に頭からモルモットを滑りこませ、それからその上に座ったのです。) # 「あれが見れてよかったわ」とアリスは思いました。「新聞で何度も読んだもの。裁判の終わりに、『拍手喝采が起ころうとしたが、すぐに裁判所の警備員によって鎮圧された』ってあるけど、今までそれが何か分からなかったわ。」 # 「それがお前の知っていること全てなら、下がってもよいぞ」と王様。 # 「これ以上下れません」と帽子屋。「私めはごらんの通り、床におります」 # 「ならば座るがよい」と王様。 # ここで別のモルモットが拍手喝さいしましたが、鎮圧されました。 # 「さて、これでモルモットは片付いた!」とアリス。「これで煩くなくなるわね」 # 「私はお茶を終えたいのですが」と帽子屋は不安そうに女王を見ながら言いました。女王は歌手のリストを読んでました。 # 「行ってよいぞ」と王様は言いました。帽子屋は靴を履く間も取らずに急いで裁判所を去りました。 # 「・・・外であやつの首を刎ねよ」と女王は警備員に伝えてました。しかし警備員が扉につく前に帽子屋は消え去っていました。 # 「次の証人を呼べ!」と王様。 # 次の証人は公爵夫人の料理人でした。彼女は手に胡椒入れを持っていました。入り口の近くのひとたちが一斉にくしゃみをし始めたので、アリスは彼女が法廷に入る前でさえ、それが誰か分かりました。 # 「証言を述べよ」と王様。 # 「いやだね」と料理人。 # 王様は心配そうに白兎を見ました。白兎は低い声で「陛下、この証人は反対尋問せねばなりませぬぞ」 # 「そうか、しなければならぬのなら、するのだが」と王様は気が進まなそうに言いました。腕を組んだり眉を顰めて料理人を睨んだりしていましたが、目が疲れてきたので、王様は低い声で「タルトはなんでできておる?」と言いました。 # 「ほとんどは胡椒だな」と料理人。 # 「水飴」と彼女の後ろで眠たげな声がしました。 # 「あのヤマネを逮捕せい」と女王は金切り声を上げました。「あのヤマネの首を刎ねい!あのヤマネを裁判所からつまみ出せ!鎮圧せい!抓れ!髭をむしれ!」 # 暫くの間、法廷全体は混乱に陥りました。ヤマネをつまみ出し、人々が元の場所に戻ると、料理人は消えて居ました。 # 「まあよいわ!」と王様は安堵したように言いました。そして「次の証人を呼べ」と女王を宥めるような調子で言い添えました。「本当だよ、おまえ。次の証人の尋問はお前がしてくれ。余は頭が痛くなってきた」 # アリスは白兎ががさごそと不器用にリストを捲るのを見ながら、次の証人が誰なのかとても知りたいと思いました。「・・・なぜって、まだ十分証言なんて出てないもの。」と彼女は独り言を言いました。白兎が精一杯の甲高い声でこう読み上げました。「アリス!」彼女の驚きといったら。 # アリスの証言 # 「はい!」とアリスはここ何分かで自分がどんなに大きくなったかをすっかり忘れて、叫びました。彼女は大変吃驚して跳び上がったので、スカートの裾で陪審席をひっくり返してしまい、陪審員たちを下の人々の頭の上に放り込んでしまいました。そこで彼らはもぞもぞ動いていたので、彼女は先週うっかりひっくり返した金魚鉢のことを思い出しました。 # 「あら、ごめんなさい!」と彼女はうろたえて叫び、できるだけ速く陪審員たちを拾い上げ始めました。というのは金魚のことが頭の中を回り続けており、ぼんやりながら、すぐに集めて陪審席に戻さないと死んでしまうと思ったからです。 # 「裁判は進められぬな」と王様は重々しい声で言いました。「全ての陪審を元の場所に戻すまでは・・・全て」と彼はアリスを見ながら、力血からを入れて繰り返しました。 # アリスは陪審席を見て、急いでいたのでトカゲを逆しまに入れてしまったことに気付きました。可哀想な小さな生き物は全く動けず、悲しげに尻尾を振っていました。彼女はすぐにそれを取り出し、きちんとさせました。「余り重大なことではないわ」と彼女は独り言を言いました。「どっちが上でも、裁判には余り関係ないと思うし」 # 陪審員たちは騒ぎから気を取り戻し、石版と鉛筆を見つけられて手渡されるや否や、生真面目にこの事件の顛末を書き記し出しました。ただトカゲだけは余りの出来事にすっかり動顚し、口をぽかんと開けて法廷の天井を見つめているだけでした。 # 「このことについて、知っていることは?」と王様はアリスに言いました。 # 「何も」とアリス。 # 「何も知らないとな?」と王様は重ねて聞きました。 # 「何も知りません」とアリス。 # 「これは大変重要であるな」と王様は言って、陪審員の方を向きました。彼らが石版にこのことを書き止め出すと、白兎が遮りました。「重要ではない、と陛下は意味しているのです、もちろん」と彼は大変丁寧な調子で言いましたが、言いながら王様に眉をひそめ、しかめっ面をしました。 # 「重要でない、勿論、そういう意味だったのだ」と王様は急いで言い、「重要だ・・・重要でない・・・重要でない・・・重要だ・・・」とまるでどっちの単語が語呂が良いかを試すかのように、低い声で独り言を続けました。 # 何人かの陪審員は「重要」と書きましたし、何人かは「重要でない」と書きました。アリスは石版の近くに居たので、このことが見て取れました。「でもちっとも構わないわ」とアリスは思いました。 # 暫く自分のノートに忙しそうに何か書いていた王様は、この時「静粛に!」と大声を上げて、ノートを読み上げました。「第42条。1マイル以上の高さの人は全て法廷から退去すること」 # 全員、アリスを見ました。 # 「私は1マイルもないわ」とアリス。 # 「あるぞ」と王様。 # 「2マイル近くはあるぞえ」と女王は付け加えました。 # 「そう、どうあっても、私は出ていかないわよ」とアリス。「大体、それって正規の条項じゃないでしょ。あなたが丁度今創り出したんじゃない」 # 「それは一番古い条項じゃぞ」と王様。 # 「だったら第一条のはずじゃない」とアリス。 # 王様は青くなって、急いで自分のノートを閉じました。「評決を審議せよ」と彼は低い、震え声で陪審にいいました。 # 「恐れながら陛下。まだ提出する証拠が済んでません」と白兎は急いで跳び跳ねながら言いました。「この紙は只今届けられたものです」 # 「何が書いてあるのじゃ?」と女王。 # 「まだ開けておりません」と兎。「しかしながら囚人から・・・から誰かに宛てられた手紙のようでございます」 # 「そうに違いあるまい。」と王様。「誰にも宛てられていないのでなければの話だが、それは尋常ではあるまい」 # 「誰に宛てられたものですか?」と陪審員の一人が言いました。 # 「誰にも宛てられておりません」と白兎。「実際、外側には何も書かれてません。」彼は話しながら紙を開き、「これは手紙ではないですな。これは一連の詩です」と付け加えました。 # 「囚人の手書きですか?」と別の陪審員がききました。 # 「いや、違います」と白兎。「そして、それが最もおかしなことなのです」(陪審員は皆困惑したように見えました) # 「奴は誰か他の人の筆致を真似したに違いない。」と王様。(陪審員は皆明るい顔に戻りました) # 「恐れながら陛下」とジャックはいいました。「わたしは書いて居りませんし、誰も私が書いたと証明できません。最後の所に署名がないではないですか」 # 「もしお前が署名してないというのなら、」と王様。「それは事態を悪化させるだけだぞ。お前は何か悪い事を企んでいたに違いない。さもなければ正直者のように自分の名前を署名したはずだ」 # これには観衆全体から拍手が起こりました。それはその日王様が言った最初の本当に賢いことでした。 # 「これはヤツの有罪を証明するぞい」と女王。 # 「何も証明なんかしてないわ!」とアリス。「それが何かかさえ、あなたたちは知りもしないのに!」 # 「それを読みあげよ」と王様。 # 白兎はメガネをつけ、「どこから始めればよろしいのでしょうか、陛下」と尋ねました。 # 「最初から初めよ」と王様はもったいぶって言いました。「そして最後まで続けて、そこで止まるのじゃ」 # これが白兎が読んだ詩です・・・ # 「君は彼女のとこへ行って、僕のことを彼に言ったそうだね。彼女は僕のことを人がいいと言ったが、泳げないのねと言った。 # 彼は彼らに僕が行かないと伝えた。(みんな、それは本当だと知っているね)もし彼女がそれでもごり押ししてきたら、君はどうなるんだい? # 僕は彼女に一つ、彼らは彼に二つあげた、君はぼくたちに3つかそれ以上あげた。それらは皆彼から君に戻ってきた、けれどもそれらは元は僕の物だったんだ。 # もし僕や彼女がこのことに係わってしまったら、彼は君を信頼して彼らを手放すさ、ちょうど僕たちがそうだったように。 # 僕がいいたいことは君は(彼女が嵌ってしまう前には)彼と、我々と、それとの間の障害物だったてことさ。 # 彼女が彼らを一番好きだって事を彼に悟られるな、なぜってこれは永遠に、他の人たちに悟られないよう、君自身と僕との間の、秘密にしておかなきゃならないから。 # 「これは今まで聞いた中では最も重要な証言であるぞ」と王様は手をこすりながら言いました。「それでは、陪審員に・・・」 # 「もし誰かがその詩を説明できるんなら」とアリスは言いました。(彼女はここ数分でとても大きくなっていたので、少しも話を遮るのを恐れませんでした)「私はその人に6ペンスあげるわ。その中には意味のかけらもないと思うわ」 # 陪審員たちは皆、石版に「彼女はその中に意味のかけらもないと思う」と書きこみましたが、誰もその紙を説明しようとはしませんでした。 # 「もしそれになんの意味もないのなら」と王様。「世界は災難から救われるぞ。これ以上犯人を探す必要がないからのう。しかし余には分からぬ」と彼は続け、膝の上に詩を広げ、片目でそれを見ました。「結局のところ、この中に何か意味があるように見えると、余は見るぞ。『・・・泳げないのねと言った・・・』そちは泳げんのじゃろ?」とジャックの方を向いて付け加えました。 # ジャックは悲しげに頭を振り、「泳げそうに見えますか?」と言いました。(彼は確かに泳げませんでした。全体がボール紙でできてましたから) # 「よろしい、これまでのところ」と王様は言って、詩をブツブツ呟き続けました。「『みんな、それが本当だと知ってるね・・・』これは陪審員らのことだな、もちろん・・・『僕は彼女に一つ、彼らは彼に二つ・・・』うむ、この所は彼がタルトにしたことに違いないな・・・」 # 「でも、『それらは皆彼から君に戻ってきた』と続いているわよ」とアリス。 # 「うむ、そこだ!」と王様は勝ち誇ったように言って、テーブルの上のタルトを指差しました。「そこ以上に明白なものはないぞ。そしてまた・・・『彼女が嵌ってしまう前には・・・』お前や、ものごとに嵌ったことはないじゃろね?」と彼は女王に言いました。 # 「ないわ!」と女王は怒って、インク壷をトカゲに投げつけました。(不幸なビルは印が残らないことに気付いて、指で石版に書くのをやめていました。しかし顔からインクが滴り落ちてきたので、それが続いている内に、今やまたインクをつかって急いで書き始めていました) # 「それではこの言葉はお前にはあて嵌らないわけだな」と王様は言って、笑って法廷を見回しました。辺りは死んだように静かになりました。 # 「これは洒落じゃ!」と王様はムッとしたように付け加えました。するとみんな笑いました。「陪審に評決を審議させよ」と王様は言いました。その言葉はその日に大体20回目のものでした。 # 「いや、いや!」と女王。「判決が先・・・評決は後じゃ」 # 「バカとアホ!」とアリスは大声で言いました。「判決を先にするなんてどういう考え?」 # 「口を慎め!」と女王は真っ赤になりました。 # 「慎まないわ!」とアリス。 # 「首を刎ねよ!」と女王はあらん限りの声で叫びました。誰も動きませんでした。 # 「誰があなたに遠慮するっての?」とアリスは言いました。(彼女はこの時までに元の大きさに戻っていました)「あなたたちはほんのトランプのカードじゃないの!」 # この言葉を聞くと、カードたちは空中に舞い上がり、彼女めがけて飛び込んできました。彼女は半分はおびえて、半分は怒りで小さな悲鳴をあげました。そして自分が姉の膝の上に頭を乗せて、土手に寝転んでいるのに気づきました。姉は木から顔にひらひら落ちてきた枯葉を優しく取り払っているところでした。 # 「おきて、アリス!」と姉は言いました。「長いお昼ねだったわね」 # 「うん、とてもヘンな夢を見たの」とアリスは言って、あなたが今ちょうど読んできてたこの不思議な冒険を全て、覚えている限り、姉に伝えました。話し終えると、姉は彼女にキスして、「それはヘンな夢ね、確かに。でも今はお茶が先。遅れるわよ」と言いました。そこでアリスは立ち上がって走り去りました。走りながら、もっともな事ながら、なんて不思議な夢だったのかしら、と思いました。 # しかし姉はアリスが去った後も、ほおづえをついてじっと座って、陽が沈むのを見ながら、小さなアリスのことと、彼女の冒険のことを考えていました。そして考えながら、眠りに落ちて行きました。彼女の夢はこのようなものでした・・・ # まず、彼女は小さなアリスのことを夢見ました。も一度小さな手は彼女の膝を抱き締め、明るい瞳は彼女にじっと注がれていました。。。彼女はアリスの声の調子さえも聞いたり、動き回っていつも目に入る髪の毛をどかすために彼女が奇妙に小さく頭を揺り動かすのを見たりすることができました。さらにアリスが聞いたように、或いは聞いたと思ったように、彼女の周り全体が、妹の夢のキテレツなイキモノたちで賑わっているのが聞こえました。 # 白兎が走っていくにつれ、彼女の足元の長い草がサラサラ言い・・・・驚いたねずみが近くの水溜りめがけて水飛沫をあげて泳いでいたり・・・彼女は三月兎と彼の友達が決して終わらない食事を分け合っている際のティーカップのがちゃがちゃいう音や、女王が彼女の不幸な客に死刑を言い渡している金切り声が聞こえました。。。もう一度、ブタの赤ちゃんは公爵夫人の膝の上でクシャミをし、大皿小皿はその周りで砕けていました・・・もう一度グリフォンのうなり声、トカゲの石版をこする音、鎮圧されたモルモットの窒息する声が空気を満たし、遠くからの惨めな偽亀のすすり泣きの声と交じり合いました。 # そこで彼女は目を閉じて座りなおし、半ば自分が不思議の国にいると思いました。しかし彼女は眼を開けなければならず、そうしたら全ての物事は退屈な現実に変わってしまう、ということを知っていました。草はただ風にそよいでいるだけにしか過ぎず、水溜りは葦のそよぎに波を立てているだけであり・・・ティーカップのがちゃがちゃ言う音は羊の鈴がチリンチリン言う音であり、女王のカナきり声は羊飼いの少年の声であり・・・赤ん坊のクシャミ、グリフォンのうなり声、そしてその他の奇妙な音は、忙しい農場の様々な物音に変わってしまい(彼女はその事を知ってました)・・・遠くの牛の低い鳴き声は偽亀の重おもしいすすり泣きに取って代わるのです。 # 最後に、彼女はこの小さな妹が、後に大人の女性にどう成長していくのか、想像してみました。彼女は後年、子供時代の素朴で愛らしい心をどう保って行くのか。どう彼女は子供たちを集めて、遠い昔の不思議の国の夢のような、不思議な話を聞かせて彼らの眼を輝かせ、夢中にさせるのか。どう彼女は子供たちの小さな悲しみを感じとり、小さな喜びに楽しみを見出し、自分自身の子供時代と楽しい夏の日を思い出すのか、思い描きました。 #